官僚になるという壮大な目標のため、石川からたったひとりで上京してきた15歳の美津未。同級生は8人のみという、自然いっぱいの過疎地で育った彼女ならではのズレや純真さが、東京の高校で出会う新たな仲間たちの心をほどいていく。
好きで好きでたまらなくて、愛の領域にまで到達している原作。
アニメ化の知らせを見たとき、この作品がもっと広まることがとてもうれしかったけれど、やっぱり不安だった。それは多くのオタクが通る道。よほど制作会社が信頼に値する実績を積んでいないかぎり、好きであればあるほど怖いのだ。
しかし、始まってみると、もうOPから号泣だった。青さのはじける曲に、美津未と志摩くんの軽やかなダンス。ふたりが心底楽しそうなのがいいし、運動がそんなに得意でない美津未はちょっと照れているのが素晴らしい。ふたりの目線や指先の動きまで、細部に作品への愛が宿っているのを感じて、これは大丈夫だと確信した。
心がつらい日、このOPを何度も何度も観ながら、ただ泣いているときもある。
「スキップとローファー」は、このいかにもな学園ラブコメ系タイトルと軽やかな雰囲気から癒し系漫画だと思われがちかもしれないが、実はそうではない。
たしかに美津未も志摩くんも可愛いし、ほかのクラスメイトの掛け合いも微笑ましいのだけど、この作品の凄さは「人間関係のリアルさ」にある。
うれしい、たのしい、だいすき、だけじゃない。人のずるいところや弱いところを丁寧に描くから、「なぜこの人物はこんなことを言ったのか?」が誰にでも分かるようになっている。
誰よりも純真とされる美津未だって、思わず声を荒らげたり、誰かのことを決めつけたりするし、人が人にした意地悪を見透かしたりする。
そういう、誰の青春にもきっと覚えがあるはずの、痛くて青い描写が盛りだくさんでありながら「それでも、向き合う」といういちばん困難な道を選んで絆を獲得していく彼女たちの物語だから、こんなにも涙をさらわれてまで読む、観る価値がある。
配信が主流となった現代にこの物語がアニメ化してほんとうによかった。どうか、どうかたくさんの人に届いて。未来にまで届いて。そして、余裕のある人はマジで新品の単行本を買ってほしい。今。
「一生懸命頑張っている人から責められている気がする」
この感覚を言語化してみせた時点で、ただのほんわかストーリーではないのだ。