長内那由多

ゼム シーズン1の長内那由多のレビュー・感想・評価

ゼム シーズン1(2021年製作のドラマ)
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1950年代、白人の住む郊外住宅地に越してきた黒人一家を襲う恐怖。ジョーダン・ピール以後の人種差別ホラーであり、50年代に家に押し込められた女達を描く心理ホラーでもある。アイラ・レヴィン、ポランスキー、『ババドック』等の影響とプロダクションデザインが洗練。『サウンド・オブ・メタル』の時も思ったけど、自宅のストリーミング視聴環境は画質も大事だが、音響回りの整備も急務。スコアを担当しているのは『ウィッチ』のマーク・コーベン。客の耳を良くする絶妙な音響演出で、怖いのにキモチいい。

E2
果たして完走できるのか?と不安になるほどストレスフルなホラーだが、演技も演出も一級品。
そして僕は時にキッチュですらあった『ラヴクラフトカントリー』の達成度の高さもリフレインしながら見ている。

E5以後、陰惨さは極まり、なかなか腰が上がらなかった。最終回直前のE9は呪いの根源に迫る全編モノクロの回想パート。『ツインピークスThe Return』以後、『ウォッチメン』『ホーンティング・オブ・ブライマナー』等で使われたトレンドの悪夢演出だ。
敬虔な宗教コミュニティに黒人夫婦が迷い混み…人の弱さ、傲慢さに悪魔は容易く入り込む。美しいモノクロ映像にロバート・エガースの『ウィッチ』を彷彿。神経衰弱ギリギリのオカルトホラーになっている。

完走
初回に興奮したものの、主人公一家に繰り返される執拗な人種差別と暴力にこちらも相当な根気を必要とし、中盤はなかなか腰が上がらなかった。この作劇を過剰だとは安易に言えないワケで演技、演出、プロダクションデザインも極めて高いレベル。評価に困る…。

白人俳優陣も果敢にリスクを背負っている(なんせ善人が1人もいない)。中でも一家に執拗な嫌がらせを繰り返すアリソン・ピル演じる主婦はもう1人の主役になる要素があった。“旧き良き50年代”の郊外住宅地で孤独に陥っていった主婦達。しかし終盤の放り出したような展開は何なんだ。
長内那由多

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