長内那由多

ザ・クラウン シーズン6の長内那由多のレビュー・感想・評価

ザ・クラウン シーズン6(2023年製作のドラマ)
5.0
E1
S5で気持ちが離れてしまい、後回しにしていた。エリザベス女王が他界したこともあり、物語の主眼は完全に変わった感。ダイアナを挟んで母の愛を得られなかったチャールズと、父に支配されたアルファイドを対比する作劇の巧みさは変わらずだが、歴史ドラマとしての魅力はなくなった。

E3まで。
明らかに増えた密室の談義にゴシップ的な興味が先立っているが、そもそも90年代の王室には他に語られるべきドラマはなかったのかも知れない。エリザベス・デビッキは、ダイアナの苦悩を敬意を持って浮かび上がらせているが…。

E4
ダイアナ事故死後の余波を描くエピソードで、ピーター・モーガンにとっては2006年『クイーン』の“再演”。当然、S5〜6を通じて核となるエピソードと思われたが、抑制的な演出に反して密室の談義のみならず、死人にまで語らせる杜撰な脚本に目眩。シリーズの最底辺。

E6
ダイアナ退場後、急速に本来のトーン&マナーを取り戻し、E6は久々の傑作回。急進的改革派のトニー・ブレアが人気を集める中、王室にも歳費削減が突きつけられる。2つの公式演説を対比させながら、女王と首相の密室の談義を創作するピーター・モーガン作劇の真骨頂。

ブレアは王室のあらゆる役職にムダがないかと迫るが、女王自ら行う面談でそれらの仕事が知恵と技術を研鑽した専門職であることが明らかになる。女王は言う「近代化だけが正解じゃない」。E6はアメリカでゴア対ブッシュに決着がついた所で終わる。ブレアのその後は知っての通り。

E7
キャサリン妃の母親役で“戴冠せざりし女王”ことイヴ・ベストが登場。母の画策により娘がウィリアムへ接近するという『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』な謎回。王位継承権が低いばかりにグレるヘンリーの描写にもターガリエンみ。本家作品が影響元へ接近している。なんだこれは。

E8
シリーズ開始当初のもう1人の主役でもあったマーガレットの退場。脳卒中で倒れた王女は姉と連れ立った戦勝の夜を回想する。多分に創作が含まれるエピソードだが、6シーズンというTVシリーズならではの蓄積と、スタウントン、マンヴィルの名演によって1つの結末に到達した。

エリザベスとマーガレットが終戦の夜、城下に繰り出したエピソードは映画『ロイヤル・ナイト』にもなっている(サラ・ガドンが可憐だった)。リッツの地下で終戦を祝うアメリカ兵達と、2001年の病床のマーガレットが9.11テロを知る対比。王室を通しての近代史も『ザ・クラウン』の醍醐味だった。

完走
2023年末、PeakTVを彩った数々の作品と共に本作も貫禄の最終回を迎えていた。S6終盤は自らの人生の決算と向き合う年老いた女王の姿に、長編大河ドラマならではの人間洞察があった。同年の最高作『サクセッション』とも相似形を成す興奮。E10の監督はスティーヴン・ダルドリー。

E10では『サクセッション』との類似に興奮した。2005年、ついにカミラとの結婚を認められたチャールズは、結婚式の場で譲位があるのではと色めき立つ。しかし、ここで“継承”が行われなかったのは御存知の通り。ローガン・ロイとは異なり、明確に引かれる訂正線!

シリーズ全体を通してはやはり故ダイアナ元妃の描写が鬼門だったと思う。どうやっても賛否は免れず、ゴシップ的なS5で一気にトーン&マナーが崩れた。ピーター・モーガンの彼女に対する評価は実は2006年の『クイーン』の時点で言及されていて、かなり辛辣だった。それにしてもPeakTVはホントに2023年で完全に終わってたんだな。『マーベラス・ミセス・メイゼル』『バリー』『テッド・ラッソ』『サクセッション』『ザ・クラウン』…。
長内那由多

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