長内那由多

FARGO/ファーゴ シーズン5の長内那由多のレビュー・感想・評価

FARGO/ファーゴ シーズン5(2023年製作のドラマ)
5.0
いつも謎かけのように始まるノア・ホーリー節が一転、コーエン兄弟版を引用しつつ凄いことになっている。ジュノー・テンプルが満を持しての主演。ジョン・ハム、ジェニファー・ジェイソン・リーら曲者揃いで、ジョー・キーリーもイメージを一新。

ノア・ホーリーがおそらく影響を受けているのがウィリアム・フリードキンの2011年作『キラー・スナイパー』(Killer Joe)。保険金殺人を巡るトレイシー・レッツの戯曲が原作。保安官にして殺し屋のマシュー・マコノヒー。主人公は殺しの報酬として妹ジュノー・テンプルを担保にする。ジュノー・テンプルの『ファーゴ』S5での役名は通称ドット。『キラー・スナイパー』ではドティ。

S5は、2019年のノースダコタを舞台に新自由主義と宗教原理主義、リバタリアニズムによるグロテスクな混沌ぶりで、ノア・ホーリーの筆致も確信的。ミソジニーに晒されたヒロインと、女性警官の束の間の邂逅にこのユニバースはフランシス・マクドーマンドから始まった女性の物語と思い出す。

年をまたいでシーズンフィナーレを迎えるS5で、ノア・ホーリーは明確に次期大統領選を危惧している。E5「つまり、あなたは自由が欲しいけど責任は負いたくない。それが許されるのは1人しかいない。」「そう、大統領だ」。E6では2019年の選挙中のトランプのニュース映像がちらりと映る。

E9
最終回を前にしていよいよ凄い事に。2024年前夜に始まった今シーズンらしく、現在のアメリカを取り巻く不安と怒りをモチーフに、そこへ1522年ウェールズから続く呪術的存在を絡ませて、人の世の理(ことわり)を説くノア・ホーリー節の真骨頂。雪煙る荒野の映像美に悶絶!

完走。
2024年、然るべき相手に“クッキー”を食べてもらうためには、いつも以上に直裁的に語る必要があったのかも知れない。S3以後、ノア・ホーリーは徹底して現在(いま)の物語である事にこだわり続けている。トランプ大勝の夜に放映されたのも象徴的。ジュノー・テンプルに救われた。
長内那由多

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