Masato

シークレット・インべージョンのMasatoのレビュー・感想・評価

3.7

ニック・フューリーとスクラル人をメインにしたMCUドラマシリーズ。

思っていた以上に本格的なポリティカルサスペンスでルッソ兄弟作のキャプテン・アメリカ並に社会性や政治的要素が強い一作。地球外生命体の密かな侵略という外連味のあるコンセプトを限りなくリアルな形で馬鹿臭くなく本気で描いており、かつサスペンス色強めに緊迫しつつ上質な雰囲気を装っていて好感触。ネトフリマーベルに近い作風でかなり好きだが、後半については難点がいくつかあり惜しい。

本作の素晴らしいところはやはり社会性。今の社会問題に鋭く突き刺すように描かれるテーマは見事。スクラル人と地球人の共存という点における、移民と難民の増加で分断社会となった世界各国を見事に表現した物語や、クルド人やユダヤ人、パレスチナ人が経験した・経験している故郷を失った種族の苦悩や葛藤を描いている。

特にフューリーの言う「地球人同士ですら共存ができないのにスクラル人なんか受け容れる余裕がない」といったセリフはまさに今の日本を含む世界各国の移民や難民問題を的確に突いた問題だし、サミュエル自身も黒人の人権活動を積極的にしている人なので、アメリカ国内における黒人の人権についても含ませたものなっている。融和ではなく分断が加速していくアメリカというオチに関してはリアルすぎた。

さらに、グラヴィク率いる集団は共存させると約束したフューリーに痺れを切らして武闘派へと変貌していった経緯があることから、連合国側に独立国家樹立を約束されながらそれが「嘘」であると屈辱を味わされたかつての三枚舌外交のパレスチナ問題や独立の実現が消えてしまったクルド人の問題を彷彿せざるを得ない内容となっており、今まさに考えるべき事象をメタファーとして上手くすくい上げているのは素晴らしく、そのリアリティが物語に面白さをプラスさせていた。

ただし、ドラマとして総合的に面白かったかは別だった。最初の1,2話はサスペンスがしっかりしていて面白かったが、それ以降はその色が無くなっていてものすごく平坦な作りになっていたのが残念。テーマの飛躍もなくて平行線のような話だった。最後らへんは他のMCUドラマ同様に急ぎ足で尺不足感が否めない。特にグラヴィクの掘り下げは足りてない。

また最終話の設定はMCUファンとして夢のある設定だが、シリーズ全体のパワーバランスを崩しかねない設定かつ、そのわりに貧弱なスケールの戦闘で終わってしまっていて消化不良。いままでのシリアスなテイストを一瞬で吹き飛ばしてしまうような展開でコメディか?ってくらい馬鹿臭くて苦笑い。

あと個人的にはフューリーの物語は愛する人を通して描くのではなく、内省を通して描いてほしかったなと思った。特に信念や老いとの闘いというのはそういうものなので。

アクションはタクティカルで良かったです。

話題になったAI生成によるオープニング映像は誰が人間でそうでないかのコンセプトと合致しつつもアーティスティックで素晴らしいものだが、SAG AFTRAの争点の一部となっているAIによる雇用機会の損失は非常に懸念すべき点だと思う。僕は俳優組合を全面的に応援しているけれども、AI生成を一様に敵として見なすよりも、どうにかして雇用とAIの恩恵をバランスよく保てるガイドラインというか、規則を作って欲しいなと思う。皮肉にも良い出来だから…

最初はもっといい点数つけたいなと思ってたけど、終盤に連れてだだ下がり。総合的にはムーンナイトと同じくらいかなあ
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