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特殊作戦部隊:ライオネスのMasatoのレビュー・感想・評価

特殊作戦部隊:ライオネス(2023年製作のドラマ)
4.3

地獄から抜け出せない悪夢

対テロの中東において女性を尋問する際に男性が女性の身体を検査したりすることをしないために作られ、そこから発展し女性兵士のプロジェクトとなっている「ライオネス」。その実在のプロジェクトを着想に繰り広げられる対テロ戦争を描いたスパイアクションスリラー。

ゾーイ・サルダナとニコール・キッドマンというテレビシリーズではなかなか豪華なメンツにテイラー・シェリダン脚本、そしてミリタリーということで見ないわけにいかなかった。

女性兵士(スパイ)の活躍、そして秘匿性と多忙さを持ち合わせたスパイであるが故のプライベートでの苦悩がメインとして描かれており、娘のためにもガラスの天井を押し上げようと仕事を頑張る努力が、逆に悪影響を及ぼしてしまって悪い結果を生み出してしまったりする母親としての苦悩。また、指揮官という重責がのしかかり、キャリアとプライベートのバランスが悉く壊れていく。そんな母親業にCIAというキャリアを密接に絡めていく物語は素晴らしい。ドラマらしく派手にドンパチせずに緻密な物語を紡いでいく。

その他、クルスを通して描かれるDV被害やデートレイプドラッグなどの女性に関しての社会問題がポリティカルスリラーと非常に巧みな絡み方をしており、さらに中東における女性の扱いの酷さについても語っていく。フェミニズム的な要素がふんだんにつまっているのが素晴らしい。この手の話になるとミリタリーなので男性的なドラマが多いのだが、それを女性からの視点、そして女性ならではの問題も盛り合わせて語っていくのは珍しいし、描かれるべき内容でとても素晴らしい。ゾーイとニコール、そしてボビー演じるジル・ワグナーも製作総指揮に加わっているのもよく分かる。れっきとしたフェミニズムドラマである。自分たちで作って、自分たちで演じて語るというカッコよさ。

中東とアメリカのポリティカルな問題も、中東を敵視するCIAが主人公なので古臭い…と感じてしまうところを、あえて逆手に取った皮肉的な語り方をする6話。英雄だと豪語するCIAだが(実際に爆破テロを阻止したことは事実だけど)、その直後にまるで極悪マフィアみたいなやり口で強盗に対処するのがアイロニーこもっている。あの所作はきっと中東でもやっていたことであり、彼らは果たして英雄なのだろうか?というのを投げかける良い描き方だったと思う。

また、7話でケイトリンの夫が中東とアメリカの対立の真理を語っていく。アメリカが敵を作り、攻撃され、報復する。この繰り返しの死のマッチポンプが簡潔に説明され、決してCIA賛歌のドラマではないことがここでハッキリと明示される。クルスもジョーも、海兵隊やCIAという死の組織から抜け出せないままでまともに人を愛せないことへの辛さが滲み出てくる様、それでもここでやらなくてはならないと自己暗示して人を殺しに行く様は、怖さを見事に演出できていると思う。特にクルスの描写は怖い。

クルスというまだ若手の兵士がいることでCIAという組織の異常さにコントラストをつけてくれてはいるが、だからといってCIAに善人がいるわけでもなく、CIAそのものを変えようとする人は出てこない。結局は人殺しの任務を続けていく。どんな心の喪失があっても、目標のために人を騙し、そして誰かにとって大切な人かもしれない誰かを殺すという闇に向かって自ら堕ちていく様がリアルでしかない。

最終話でCIAという組織が異常な世界であることを明確にする物語だった。非常に後味の悪いラスト。人間を捨てるということは、少なくとも真っ当な人間には無理であるということが辛く描かれ、心が壊れていないものは去っていく。地獄のようなクライマックスだった。どんな人間であっても、人を殺すということの罪深さをしっかりと語っていく。アンチCIA。

この作戦の影響が非常に未知なものとして描かれていることが怖かった。小手先の効果でしか無く、待ち受けるのはさらなるテロリズムか第三次世界大戦か。マクロとミクロ両方の視点でも新たなテロリズムの幕開けが始まるような不穏なラストはホラー。

愛をなかなか与えることができないジョー、愛を享受できなかったクルス、女性軽視の政略結婚で愛を失っていくアーリヤと、3人の女性がそれぞれの立場で愛することに翻弄されていく様も良かった。

いくつかレビューを読むと、本作を中東を悪と捉えていると勘違いしている人が多いが、これはあくまでCIAの上部のキャラクターがそう捉えているという話で本作自体は悪と捉えていない。脅威とは捉えているが、なぜ脅威なのかという理由を説明している。本作はそこよりも、アメリカ(特にCIA)が如何に異常であるかを、人を愛し愛される真っ当な"人間"を通して描いた作品である。複雑な物語なため、ちゃんと見ていないと混同する。

ドラマメインなのでドンパチは少ないが、数少ないシーンでもミリタリーアクションらしい所作のリアルさは追求されており、ミリタリーオタクなら興奮してしまう気持ちいい作戦実行シーンもあるので最高。

ニコール・キッドマンとゾーイ・サルダナの名演はさることながら、新人のライズラデオリヴェイラの演技がベテラン勢を食ってかかる凄まじい演技で素晴らしかった。なによりもカッコよすぎて好き。
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