Masato

THE IDOL/ジ・アイドルのMasatoのレビュー・感想・評価

THE IDOL/ジ・アイドル(2023年製作のドラマ)
2.5

The Weekndとユーフォリアのサム・レヴィンソン、HBO(そしてA24も)がタッグを組んで作ったハリウッドのポップスターの苦悩とその周りに渦巻く闇を描いたドラマ…と見せかけて作り手の倫理感に欠けた薄っぺらい胸糞物語に憤慨するドラマ。

次にU-NEXT入る機会に見ようと楽しみにしてたのに死ぬほど評判悪くてズルズル後回しにしてやっと鑑賞。現代的な美的センスかつ音楽的な側面からのアプローチで作られた作品で、The Weekndのミュージックビデオみたいなダークさが好きな人はハマると思う。冒頭で氷の微笑とシャロン・テート事件が言及されるけど、まさにその通りの物語になる。

エンタメ業界の闇に翻弄されるまだ心は成熟していない女性の物語。物語としては音楽スターの実録伝記映画にありそうな、スカウトに拾われて有名になった一人のアーティストが芸術と商業の狭間で苦悩する様や、デカいプロジェクトで様々な人が動いているために立ち止ることができなくて疲弊していく様や、強いプレッシャーで失敗できないと責任が重くのしかかっていく様や、ついには母親が死んで間もなくてメンタルぶっ壊れ状態と、色んな苦悩が隊列組んで襲ってくる怖い物語。

そんなところに胡散臭いクラブのオーナーと出会ってしまって、そいつがとんでもなくイカレたチンカス野郎だった。スターとしての魅力が出てくると同時にカルトのような闇の世界に誘われ支配されていき破滅していく。ミュージックビデオ的な美しさでダークファンタジーのような雰囲気があるので重たさは感じないが、それよりもめちゃくちゃ気持ち悪くなる。イカれた連中が「個人の死よりも芸術だ」とか芸術について語る様は胸焼けするくらいにキモい。

最近見たアンジー主演のGIAやダーレンのブラックスワンみたいなのと同様、ジョスリンは家庭環境からなる心の発達の歪みが被支配欲を生み出してしまい、それによって悪質な男性に寄生してしまい破滅していくという、心が壊れていると本当に無防備で怖い。

…と思っていたんだけど、最後の最後で最悪の終わり方をして終了。物語的には面白いし氷の微笑的なことしたかったのはよく分かるけど、じゃあそれまでに描かれてきた虐待や洗脳、グルーミング、拷問や性的なシーンとか、すべての過激なシーンがただの過激なシーンとしてしか意味をなさなくなって、メッセージ性がすべて消えた。こんなセンシティブなテーマをただ娯楽消費するだけして終わらせるなんて倫理観のへったくれもなくて大嫌い。これは酷評も納得。

久々にただ胸糞悪いだけの薄っぺらい映画見せられた。

今のエンタメ業界の裏側とかメジャーアーティストの音楽性の議論とかがあるのは新鮮。ただ、インティマシーコーディネーターを監禁したり、非常に個人的なトラウマのことを語るためにそのトラウマを再現したり(本来なら歌で克服するのに)、やってることすべて真逆。これがインティマシーコーディネートやメンタルヘルスを大事にしようと表現する皮肉ならいいんだけど、あのオチを見たらそういうことではなさそうだから余計にクソだな。

今は業界もクリーンになるように頑張っていて、これがハリウッドの音楽業界だ!と決めつけることはよくないが、心が弱いとすぐに食い物にされる世界なのは間違いなく、才能があって金になれば倫理は関係なし。心の弱い人間が真っ先に金儲けツールにされるのは資本主義の宿命。


キャスティングが面白い。いつもと目つきが違くて怖いThe Weekndは勿論のこと、トロイ・シヴァンが出てる。すごい映像的に映えるしカッコよすぎ。マイク・ディーンが常にパイプ片手に持っててアホで面白い。ブルピンのジェニも出ていて、洋楽好きとしては半端ない。新たな発見としてレイチェル・セノットやハリ・ネフなどのまさにイマを代表する俳優の魅力も凄まじくて、出演者の力もかなり大きい。

それとレッドロケットで鮮烈なデビューを果たしたスザンナサンが本作でも全裸になる。レッドロケットでもピアノ弾いてたからガチで弾いてるんだろうな。やはり歌がうますぎる。彼女には底なしの魅力がある。もっと活躍してほしい。

主演のリリー=ローズ・デップは第一話のファーストカットからもう素晴らしい演技。体を張っているのは当然だけど、それ以上に表情の作り方がやばい。未熟で弱々しく、そして壊れていく様がリアルすぎて凄まじい演技。作品の評価に影響されて評価されないならおかしいと思う。それくらいに凄い。

主人公はレイチェル・セノット演じるレイアだったね。あの人だけマトモだった。それ以外はカス。
Masato

Masato