ノラネコの呑んで観るシネマ

SHOGUN 将軍のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

SHOGUN 将軍(2024年製作のドラマ)
4.8
完走。いやー素晴らしい。
関ヶ原の合戦に至るまでのパラレルワールドの日本の物語でありながら、合戦そのものは描かないと言う、日本ではありそうで無かった戦国もののロジック。
ここにあるのは登場人物全員腹に一物ある、権謀術数渦巻く目の離せない宮廷陰謀劇で、緻密に作り込まれたもう一つの日本が、絢爛豪華な歴史絵巻を演出する。
特に最後の3話は神回だった。
プロットはジェームズ・クラヴェルの原作に忠実だが、いきなり釜茹でとかトンデモ要素は極力目立たなく、切腹も意味づけを理解できる様に登場人物の心理を描き込み、単なるエキゾチシズムを脱している。
真田広之をはじめ役者は皆素晴らしく、個人的MVPは藪重を演じた浅野忠信。
国を動かす大物たちの騙し合いの間で、保身のために汲々とする絶妙な小物感とその悲哀。
まさに“戦国中間管理職”と言いたくなる、現代的キャラ造形が感情移入を誘う。
浅野忠信は時代劇の時もいつも芝居のノリは現代人なんだが、藪重はむしろそうでなければならないはまり役。
アメリカの視聴者にとっては、男も女もすぐ死にたがるエキセントリックな人たちの世界の中で、按針と藪重だけが自分たちの常識が通じる“普通の人”である意味は大きい。
あともう一つの事件は、本作でスターダムを駆け上がったアンナ・サワイだ。
完璧な英語を話す彼女は、日本人の役も日系人の役も出来る。
日本人の男性俳優は、これまで真田広之や渡辺謙がハリウッドで背中を見せて来たが、アンナ・サワイは、女性にとってのそう言うポジションになってゆくのかも。
ところで、原作では按針は日本を離れることが出来なかったはず。
と言うことは、あの未来は夢と言うことか?
それとも日本での出来事が、全て泡沫の夢なのだろうか。
曖昧性を持たせることで、死んでいった登場人物たちが物語の中で永遠となる、実に上手い落とし方だ。

ディズニー+。
とりあえず2話まで観た。
昔のリチャード・チェンバレンのドラマはほとんど覚えてないので比較は出来ないが、非常に面白い。
太閤亡き後の大阪で展開する、権謀術数渦巻く宮廷陰謀劇。
フィクションだが、キャラの大体の役割は実在のモデルと変わらないので観やすい。
驚かされるのは、いよいよこのレベルの時代劇がハリウッドで作られるようになったのかと言うこと。
プロデューサーを兼務する真田広之の尽力が大きいのだろうが、「沈黙 サイレンス」を上回る完成度の封建時代の日本がここにある。
パッと見てわかる、ありがちな違和感は皆無。
それでいて、ビジュアルのリッチさは完全に映画レベルなのだ。
このクオリティがドラマ基準になってしまうと、NHKの大河とかどうするんだろう。
もう配信ドラマと地上波は別のものと割り切るか、逆に予算を増やして世界市場に打って出るのか。
これは日本が世界に触れる話でもあるので、その意味でも象徴的な作品だと思う。
このレベルでドラマが作れるなら、映像化してほしい原作は無数にある。
ドラマ史のエポックになるのか、全話配信が楽しみだ。