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パトリック・メルローズのotomisanのレビュー・感想・評価

パトリック・メルローズ(2018年製作のドラマ)
4.2
 ベネの息子が祖母の財産にまとわりつくヒーリング屋に「出てゆけ」と叫ぶようにベネも父親に「いけない」と言い渡せばよかったろうか。
 最終話のあのときにやっと初めて思い至ったのか、8歳のあの日にそれができたならと思う時、あれから30年も遠回りをしないで済んだかもしれない。それを口にして反ってひどいしっぺ返しを被る事になったかも知れない。のちの母親との事も全く異なる様相に運べたかもしれない。少なくとも、あの父親も医学を志して勘当を食らったように、それより十年早く人生の転機を否応なく受け止めることになったかも知れない、そして、図らずも親の下を離れて、望まぬ関係のまま親と共に生きる痛苦を避けて視野を切り替えることが叶ったかもしれない。
 ひと睨みで他を圧殺する公爵ワザを敵勢や植民地勢、民衆どもに振るった先祖の末裔が志す医術も謎めくが、衰亡する帝国とともにワザをかける相手も家族知友の間に鳴りを潜め、米国成金を出自の妻の財力を防壁に温存する威勢の最後の矛先を息子のベネに絞った挙句の異常性愛癖が、内心注ぎたかろう父にして公爵からの薫陶の虚しげにも熱い様子が、開花しなかった才知の垂れ流しとともに何とも悲し気に映る。もし8歳の息子から掣肘を加えられていたら、この仁であってもどんな惑乱や怒りのうちであれ、自身を見つめ直す事がいつかはあったろうか。
 考えだしたらきりがないが、そのとき到底できそうにない事でも思い返せばあの時にと、今更悔やまれた事がどれほどあるだろう。それを知るからよく分かる。もう取り戻せないからこそ次の分岐点を見送りたくないとも思うのだ。だから、長年お決まりだった逃げ道を断ってわが家に戻るのだし、父親には告げられなかった「そんなことをしてはいけない」ことを自らに返すのだ。こんなありきたりな結末をどこか気に入らず眺めながら、成れるもんなら幸せになるがいいと突き放す気分でいっぱいになる。
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