漱石枕流

ドロップアウト~シリコンバレーを騙した女の漱石枕流のレビュー・感想・評価

4.4
これは最近のシリーズ作品でも抜群におもしろかった! ユニコーン企業の失敗実話といえば、近い時期にAppleTV+で配信された『WeCrashed』がある。こちらもデキは悪くないのだが、本作の方が気に入った。

このふたつの作品の違いは、不快感の有無。『WeCrashed』は、とにかく会社を私物化して好きなように経営しているCEOとその妻が腹立たしかった。これに対して本作のエリザベスは、たしかにやっていることはそれ以上に悪どい(完全に犯罪!)なのだが、不思議と怒りが湧いてこないのだ。

それはたぶん、主人公がより描けているからだと思う。「あの子は詐欺師よ」という大学教授のセリフがあったが、彼女は最初から詐欺を働くつもりはなかった。とにかく成功したかったのである。

だからもし、検査機が完成していれば、その必要はなかった。もちろん彼女のやったことは許されないが、どのような経緯で道を外したかがきちんと描かれていて、気持ちがまったくわからないでもない。だから、ムカつかずに済んだのだと思う。

ただ、セラノスの会社組織そのものは気持ちが悪かった。まるで北朝鮮の縮図を見ているかのよう。もしエリザベスが金正恩だとすれば、サニーが金与正、弁護士が朝鮮労働党の政治局員で、タイラーやエリカなどの元社員が人権活動家に転身した脱北者といったところか。

ひとりの女の欲望と私怨で莫大な投資と雇用が失われ、世の女性CEOたちが資金集めに苦労する羽目になったのはとんでもなく痛い。しかし、この事件で得られたものがふたつある。ひとつは教訓。そしてもうひとつは本作という傑作が生み出されたことである。

[ドイツ語吹替音声+日本語字幕]2022/10/07-14 Diesny+
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