漱石枕流

Pachinko パチンコの漱石枕流のレビュー・感想・評価

Pachinko パチンコ(2022年製作のドラマ)
4.4
今から15年ほど前だと思うが、トレンディードラマ(と当時言われていた)枠で在日韓国人がヒロインとして登場するシリーズが放送されて話題になった。

私もかなり驚いたのだが、その後韓流ブームが定着してしまい韓ドラやK-POPが社会現象を巻き起こしても当たり前のこととして受け止めるようになった(もっとも『パラサイト』がアカデミー作品賞を取ったときは興奮してしまったが)。

だから、本作に関しては久しぶりに驚かされた感がある。なにせ、アメリカのドラマで〝在日コリアン一世女性〟の人生を描こうというのだから。もっとも米国人から見れば、彼女たちもいわゆる〝移民〟であるから、多様性を標榜しているAppleが着目したのも不思議でないのかもしれない。

そういうわけで、けっこう期待して観た。まず、クオリティーが素晴らしい。なんでも1話あたりの制作費が『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ザ・クラウン』に匹敵するほど掛けているから当然なのだが、それよりも日本人から見て自然である点がよかった(厳密にはまったく違和感がないわけではないが、許容範囲内である)。

そして肝心の内容も。キャラクターにそれぞれの個性や魅力が感じられる。なにより主人公であるソンジャがとても良い。ごくふつうの女性なのに、すごく存在感がある。あとキャスティングも見事だ。たぶん、先にユン・ヨジョンをキャスティングし、そのあとで10代のソンジャを選ぶオーディションを行なったのではないだろうか。それが功を奏していると思う。

男性陣もよかった。じつはイ・ミンホを見たのは初めてだったのだが、とても演技力があって男の私でもぼれぼれした。あとソンジャと結婚する牧師のイサクが(類型的な善良人ではあるけど)たいへん魅力的なキャラクターで、いいセリフを連発するのに好感を持った。ソンジャが結婚した理由が「ただ自分を拾ってくれたから」だけではないことが表現されていると感じた。

ストーリーも心に沁みた。最初はさまざまな年代を行ったり来たりする構成に、ついて行くのがちょっとたいへんだったが、これはすぐに慣れるだろう。
いわゆる韓ドラは全般的におもしろい作品が多いのだが、最終話を観終えてしまうとたいがい忘れてしまう。しかし本作は長く印象に残った。特に最終回のラストは名場面だと思う。何度も反芻してしまった。

ちなみに、そのシーンの後に実在する在日コリアン女性のインタビュー集がついている。この世代の方々の高齢化が進んでいることを考えると意義はあるのだが、作品に含めるのはどうかと思った(ボーナス特典映像として別にしてほしかった、という意味)。ただ、これは私が最初に書いた意図をあらためて最後に強調したかったのだろうとも思え、これはこれでいいのかもしれない。

そういうわけで作品に対する不満はあまりないのだが、あえて挙げるとするとソンジャとハンスが男女の関係になるまでの描写が物足りなく感じたところか。

あと、日本語のシーンでも字幕が付くのがちょっとわずらわしかった。韓国人やアメリカ人の俳優が発音するそれがネイティブには聞き取れないかも、という配慮だったかもしれないが、ほとんど問題がないように感じられた。可能なら2種類用意してくれるとありがたかった。

[ドイツ語吹替音声+日本語字幕]2022/04/20-29 Apple TV+
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