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ブラッシュアップライフのdxdxdのネタバレレビュー・内容・結末

ブラッシュアップライフ(2023年製作のドラマ)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

「架空OL日記」×「素敵な選TAXI」×ループモノ(正確にはループしてないけど)と思っていたら、
終盤まどマギみたいな展開になるわ、とんでもない所に連れてかれた。
「あれっぽい」というのもおこがましい、ジャンルで括れない傑作ドラマだった。

まず、バカリズムだから日常会話はもちろん面白いんだけど、
人生やり直しの設定の作り方が非常に上手い。

30代での唐突な死

生まれ変わりは大アリクイ

徳を積めば人間に生まれ変われる

徳を積むために身の回りで起きるミッションをクリアしていく

だから、ただ漠然と人生をやり直すのではなく、
「人間に生まれ変わる」というゴールが設定された事によって、視聴の視点が定まる。
また、細かいあるあるに思えたことが実は伏線だったことが分かる。
第一話の公衆電話やポケベルを駆使しして、浮気を阻止しようとする展開は
もはやスパイアクションだったし、前半にしっかり振っており、その手際の良さには脱帽した。

ポケベルでいうと、その年代を象徴するアイテム、ドラマ、番組の描き方に悶絶した。
個人的には「伊藤家の食卓」「ズームイン、朝」「ゲームボーイアドバンス」「粉雪」辺りが特に心に突き刺さった。(これがフジテレビだったら、「トリビアの泉」「笑い犬の冒険」とか何だろうな)。しかも、アラサーへの単なる目くばせじゃなくて物語上でもキーアイテムになってくる。第2話、憎っくきミタコングが没収したアドバンスと「逆転裁判」を返すくだりに少し泣きそうになってしまった。

ひと昔前のあるあるだけで行けるのに、そこに各職業の細かなあるあるが混ざりこんでくる。
このドラマがなければ、薬剤師、公務員、研究者、パイロットの細やかなあるあるなんて一生知らないままだった。特にテレビ局編は共感しかなかった。自分も10時からいた顔をしているし、メールや電話でいいと思う打合せは腐るほどある。プロデューサーのインタビューを読むと、徹底的に取材して、徹底的に負担感じていることを絞り出してもらって、最後に出てくる絞りかすみたいな、重箱の隅をつつくような細かなネタが出てくるとのこと。
いわば時間軸的な縦方向のあるあると各職業の横方向のあるあるを描くことによって唯一無二の作品になっている。

終盤、テレビ局編であった「不倫を防ぐとか地味だよ。タイムリープものなら世界とか救わないと」の言葉通り、友達とその他多くの人たちを救うべく、最後の人生は奔走する。来世人間が確定していたのに、わざわざそれを捨てて、もう一度人生やり直すのが本当にヒロイックで、また泣いてしまった。「来世にかけるのではなく、今世をよりよく生きる」とあるが、まさに本作の根幹の部分を指し示しているようだった。ただ、目標設定が人命救助なのに、会話のトーンは全く変わらない。決して超人的な力が発動するわけではない。ただ、ひたすら地味な努力と根回しを行っていく。結果的に河口さんのファインプレーに助けられたけど、これもあーちんとまりりんが努力を積み重ね、それが認められ、雑誌に載ったからこそ成し得たこと。こういうドラマ映えしない努力と習慣こそ、大きな物事を成し遂げるためには必要なんだと、オフィスワーカー賛歌にも思えた。タイムリーパーを自称する浅野忠信がまさにその対極にいるようだった。

ラスト、地元に帰り、4人で仲良くずっと一緒に暮らす、この上ない幸せを享受する。
何なら宣言通り、宙を浮く車いすが走る最先端の老人センターで老後を過ごし、おそらく4人仲良く鳩に生まれ変わる。2000年代から2010年代、ファスト化する地方都市に対して、「ここではないどこかへ」を求めて、地方を脱出する映画・ドラマが多かったと思う。また、4人の女性がそろえば、「東京タラレバ娘」のように仕事、恋愛、結婚をする。このドラマはそんなことは全くせず、むしろ真逆。「地元最高!」と声高に叫ぶ。仲のいい友達と最高の地元で毎回どうでもいい話をして、カラオケに行く。そんなありふれた事が一番幸せで愛おしいのだ。

日本のドラマが作ってきた呪縛をこのドラマ自身が解いているようだった。
ドラマクラブがあったら、今期は「ブラッシュアップライフ」って言われているんだろうな。
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