めしいらず

ユーミンストーリーズのめしいらずのレビュー・感想・評価

ユーミンストーリーズ(2024年製作のドラマ)
3.3
ユーミンの楽曲から生まれた三作家三様の物語。
「青春のリグレット」
女性のいやらしさが前面に出て如何にも綿矢りさ原作らしい感じ。末期的な夫婦関係修復の旅は芳しくない様相を呈し、飛び出した妻はこの場所に彼氏と来た昔日の記憶に導かれるように夜を彷徨する。かつて媚びる彼氏を鬱陶しく感じたのと同じように、夫に媚びて疎んじられている今の妻。彼女はあの日の彼氏の行動をなぞりみじめな気持ちを追体験する。止まってししまった時間はもう後にも先にも進めない。でも、憎しみによってでも私を覚えていてほしい。ああ。やはり女は男よりも断然たくましい。
「冬の終り」
柚木麻子が原作。新人パートとの円滑とは言えない関係を少しでも和ませたいと願う先輩パートの善き心。彼女の不器用な優しさに触発されたパート仲間たちのお節介が加わって、善き心の輪が広がっていく。そして新人パートが秘めていた辛い現実と悲しい過去。それはなんら特別なことではない。言わないだけで誰もがそれぞれの問題を抱えていて、それでもあえて黙っているものだ。でも寄り添おうとしてくれている人がいるってだけで、寒々とした胸の内がどれほど温まるだろうか。駆け出した新人パートの心からの呼びかけが彼女の来し方を思わせてホロリとさせられる。本当に何てことない些細なお話なのだけれど、15分×4話のこの”夜ドラ”のサイズ感と丁度良くマッチしていてとても好もしい。
「春よ、来い」
最愛作家の川上弘美が原作。個人的にはこれが三篇中の白眉だった。利己から利他へ。著者の達観した境地を思わせる。一つだけ願いを叶えられる特殊能力を持った面々は、それぞれ何にその力を使ったのか。何かと制約が多いその能力。果たして願いが叶ったかどうか判らないし、だから本当にそんな力があるのかも大いに怪しい。悲しげだった亡き母の面影。顧みられない居た堪れなさ。将来の不安。いじめ苦。人を恨んでも詮無い。悲しみを知っている人は他人の悲しみにも敏いのだ。だが彼らが他人の幸せを心から願った時、自分の心もまた満たされていた。信じる者は救われるのだ。もしかしたら幸せになりたいあらゆる人々に、この特殊能力は備わっているのかも知れないと思わせてくれる。三組の人間関係の間を行き来して、この”夜ドラ”サイズに対して盛り込んだ内容なのだけれど、とても綺麗に纏められている。都会的な見せ方のセンスが見事。特にスノードームの儚くて切なくて優しいイメージが全体を包んで何とも言えず美しい。
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