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さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~のmaのレビュー・感想・評価

4.5
「わたしは絶対に音楽を諦めない」

ウィーンで指揮者をしていた夏目は、将来有望だったが、娘との間に起きた事件がきっかけで指揮者を辞め、音大に勤めていた。5年後、ひとりウィーンに残っていた夏目は日本の家族の元に呼び戻され子どもたちと暮らすことに。そしてある崖っぷちオーケストラと出会う。


多くの人が言うように「リバーサルオーケストラ」と設定が被っているのでは?という危惧は確かにあったけれど、「リバオケ」がどこまでもまっすぐに音楽を描いた物語であったのに対し、本作「さよならマエストロ」の本筋は父娘の絆の再生であるから、丸被りというわけではない。

夏目と晴見フィルの出会い(マエストロの登場に緊張しすぎてしっちゃかめっちゃかになる演奏と団員たちの心の声)がめちゃくちゃ面白くて、そこがピークかもしれないと思っていたが、とにもかくにも8話が最高。めちゃくちゃ泣いた。いろんな親子愛に泣かされた。柄本明演じる夏目父も圧巻だったが、実はこのドラマで誰よりも「音楽」をしていたのは天音である。

かつての夏目と同じように、ある日突然音楽に心奪われ、楽譜も読めないところからすべてが始まった天音の、美しいきらきら星、涙と叫び。天音自身が発光しているかのようなあの眩しい姿に、どれだけの人が励まされただろう。きっとこれからも、わたしの心に天音がいる。わたしには別に、どうしてもやりたいことはないし、何かで輝ける人間ではないけれど、それでもこれから先もずっと、あのときの天音はわたしの心を補強し続ける。

これは父娘の物語だったが、わたしは天音が天音のアパッシオナートに出会い、目覚める物語でもあったのだと、個人的には思う。

ほんの少し物足りないラストだったが、どうかまた帰ってきてほしい。

音楽は上手な人だけのものじゃないということを楽しく伝え続け、わたしたちの心をやわらかく照らしてくれる作品だ。
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