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おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!のmaのレビュー・感想・評価

5.0
「わたしはずっと、あなたが選ぶ方にいる すぐ近くに」

凝り固まった価値観を振りかざすため家族からも部下からも距離を置かれている沖田誠、48歳。特に高校生の息子は不登校で、どうにかしたいがどうすべきか分からない。そんなある日、誠は大地というゲイの青年に出会う。


間違いなく、今期いちばん好きな作品だった。

ただ〝多様性〟を重んじるフリをして登場する彼らのアイデンティティを消費するのではなく、あの物語のなかで泣いて笑って怒って喜ぶ、誰もがちゃんと生きていた。

彼らにはそれぞれにかけがえのない「好き」と、それを貫いていくために越えなければ/越え続けなければならないハードルが多数あるのだけど、ひとりひとりが「それでも、」と前を向く過程がとてもせつなく、愛おしい。

後ろ指をさされるかもしれない。
将来の役には立たないかもしれない。
経済的に負担になるかもしれない。
実の親に認めてもらえないかもしれない。

それでも。

まるで、視界がぱあっと開けていくような眩しさを感じた。


最初ははっきりと危うさがあった誠の、「大地くんが笑うまでの時間に、どれだけ泣いたんだろう」という言葉にも涙があふれるし、「萌はいい子だよ」と言われた萌の表情にも心が震えた。プロポーズはわたしまで固唾を飲んで見守ったし、号泣したし、孤独を癒してくれたランダムを一生懸命愛する美香も素敵。翔がさまざまな人と関わり直しながら少しずつ背筋を伸ばしていくさまも、見ていて誇らしかった。良いシーンばかりで、どれもほんとうに愛おしくて、もう既に最初から観返したい。

大好きなAquaTimezの「一生青春」という曲にも「ひたすらに悲しみを歌い通した時にこそ 君の目の前に光は灯るのでしょう」という歌詞がある。ひたすらに悲しみを歌い通し、周りの人々に光をもたらしてきた大地がようやく報われるラスト。違和感を覚えた人もいるかもしれないけれど、それでもわたしは幸せを感じたよ。

古池さんのようなパワハラ・セクハラ全開おじさんを決して置いてけぼりにしないのも、この作品のやさしいところだと思った。この物語において、時代にそぐわない言動をしまくっていたあのおじさんは、打ち倒すべき敵でも嘲笑の対象でもない。古池さんはただ、これまで価値観を変えるほどの出会いに恵まれず、そして今、ここで、今の誠たちに巡り会ったのだった。

ラスボスと言っても過言ではない大地の父親も、間違ったことは言っていない。でも、正しさを振りかざすことは正しくない。安全圏から正論をぶつけるのは楽だし、簡単だよ。風のなかを行こうとする大切な人がつまずいたときに支えられるよう、自らも風に立ち向かうことが、どんなに困難か。

どんなときでも、人の内側の悲しみに目を凝らしていたい。
ずっとあなたが選ぶ方にいる。大切な人に笑ってそう言える自分になりたい。そう言ったときに、きちんと力強さを感じてもらえる自分に。

とても書ききれないくらい、ほんとうに大切なものをたくさん受け取った物語だった。

ありがとうしかない。



「生きていると思いがけないことが起こる
いいことも、悪いことも
それをいくつも乗り越えるうちに鈍感になる
鈍感ってことは生きやすさでもある
でも感動もなくす
だから人生の醍醐味を味わいたいなら
自分に慣れないことだ
慣れて、自分も周りの人間も雑に扱わないことだ
向き合って、感謝して、必要なら謝る
今なら間に合うぞ」
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