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ONE PIECE FILM REDのsanbonのレビュー・感想・評価

ONE PIECE FILM RED(2022年製作の映画)
3.6
話題作りの大渋滞。

かなりのうろ覚えなのだが、最初期の短編映画に「ルフィ」達がパラパラみたいなのをただ踊るだけの作品があったように思うが、なんかいっその事そっちの方が観ていて純粋に楽しかったなーという思い出が強かったような気がするくらいには、今作は個人的には残念な仕上がりだった。

うーむ、これが歴代シリーズで最速50億を突破した作品になってしまったのか。

てか、これが最終的に200億にせまる売り上げを叩いてしまうとは、言っちゃ悪いが世も末である。

これでは、あれだけ真向勝負で気合いを入れて作られていた「スタンピード」があまりに報われないではないか。

所詮はこの記録的な売上も、結局のところは作品自体の力というより「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」が作り出したムーブメントに乗っかっただけの、言わばごっつぁんゴールみたいなものだろう。

自分としてもあまり否定的な批評には基本したくないのだが、そうせざるを得ないくらいには、今作が追求していたのは内容の面白さというよりも、どんな"客寄せパンダ"をどれだけ用意すれば、ダイレクトな集客に繋がるかという魂胆ばかりが目についてしまい、それがマジでダメだった。

今や、アニメ映画は100億を超えなければ失敗みたいな風潮が出来上がってしまっているから、そのプレッシャーの中で「ONE PIECE」のようなメジャー作品を打ち出さなくてはいけない苦労は十二分に理解するが、今作はあまりにそれが営利目的に偏り過ぎてしまっているというか、意地の見せどころがあまりに間違ってるように思えてならなかった。

まず、これも何度言ってきた事か、最早自分でも辟易するくらいなのだが、劇中に人気アーティストの曲を絡めて展開する方法は、2016年の「君の名は。」から既に6年も続く流れであり、それ以降あらゆる作品が「音楽」という他ジャンルからの副産物的恩恵にあやかってここまでやってきた訳だが、この手のやり口自体がもういい加減食傷気味なのである。

ましてやそんなタイミングの中で、ONE PIECEの世界観にそれを組み込むにはあまりにミスマッチ過ぎるところを、今作では無理矢理にねじ込んできているもんだから、観ている間中ずっと「なにがしてぇんだよ」と思いながらの鑑賞であった。

その上で、今作はキャラの魅力でも、ストーリーの魅力でもなく「Ado」の魅力だけを前面に押し出したような作りでしかなかったから、全く以ってONE PIECEである必要性がなかったし、歌を重要な要素として選んだ割には、物語に歌が上手く組み込まれていたとは言い難く、その物語すらも7曲もの劇中歌を消化する為だけに、特に必要でもない展開を無理矢理にぶち込んだようにしか見えなかったから、それこそ「なにがしてぇんだよ」という感想はむしろ必然だったとさえ思えてくる。

あと「トットムジカ」という存在も、ONE PIECEの世界観的にアリだったのだろうか。

色んな種族やら、ロボやら、はたまた妖怪みたいな奴等までいる世界だから、結構なんでもありな作品ではあるのだが、これらは一応実存する生物や人工物として登場している訳で「魔王」的な生物なのかすら分からないような"超常的"な存在がこれまでの作中で出てきた事はないし、そういう観点から見るとなんかもの凄く違和感のあるキャラクターだった。

あと、無意味な懐キャラの再登場も結構やってんなーって感じで、好意的には受けとれなかった。

出す必要がないのに、固有名詞があるキャラクターをたくさん出すって、スタンピードで味をしめての二番煎じとなっているうえに、物語への絡め方も大概雑で、それこそ正に客寄せパンダのそれでしかなかったし、女子ウケを狙ったのか「ブルーノ」や「ベポ」や、果ては「サニー号」まで2頭身キャラにして、ファンシーさをプラスしてきといて、それがなんの理屈でそうなったのか、そうした意図はなんだったのかが、全く回収されていないのも気に食わないし「コビー」をメインに謎解き要素を展開させると思いきや、結局核心的な事は何も解決出来ずに終わってしまうなど、展開としても投げっぱなしで中途半端な印象が大変強く、脚本の粗が非常に目立つ出来であった。

忖度抜きに言ってしまうと、今作のキャスティングで唯一必然性があり、しっかりとストーリーにハマってたのって「ヤソップ」くらいではなかっただろうか。

あと、マジで気に食わないのが脈絡のない「ニカ」の登場である。

本当にあれは酷くないか?

TVアニメでもまだ出てきていないのに、話題作りの為だけに無理矢理ねじ込んできたのも去ることながら、時系列を無視したパラレルにしてももっと出し方というものがあるだろう。

原作でも、ルフィが一度死ぬくらいに追い詰められてようやく覚醒したような能力を、勢い任せに本人すら自覚していないようなヌルッとした感じで、気付けば出てきて気付けば出番が終わってるみたいなのは正直言って「趣味が悪いなぁ」という感覚しか覚えなかった。

ONE PIECE史上、あんなにドラマ性の欠けた情緒もへったくれもない覚醒シーンはなかっただろう。

あと、アクションシーンも正直言って微妙。

「ウタ」はそもそも攻撃対象外だし、トットムジカは無駄に巨大なもんだから、ちゃんと戦ってるという実感があまり持てない映像や展開がずっと続く。

作画も「攻撃のモーションをしている味方がいます」「攻撃を受けているモーションの敵がいます」
「技を繰り出したりそれがヒットしたようなエフェクトがあります」の3枚のコンテが、ただ一画面に重なって映し出されてるだけのような感じが強く、劇場用の作画とは到底思えなかったのが本音だ。

そして、ED前に仰々しく差し込まれるタイトルカットの白々しさ。

その上で、あの尻切れとんぼのようなラスト。

あのぉ、確かに「シャンクス」は出てましたが、果たして一体なにが「RED」だったんでしょう。
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