ばふらー

メタモルフォーゼの縁側のばふらーのレビュー・感想・評価

メタモルフォーゼの縁側(2022年製作の映画)
3.8
「好き」でいるだけなら、きっとひとりでも平気だった。一冊の本を「好き」と他者に言うことが、本当に難しい。

共有する喜びが、主人公2人の様子から伝わる。同じ本を好きになって、互いの好きを否定しない。ほどよい距離感の友達との、楽しい時間。夏の情景が懐かしさを引き立たせる。
優しい人ばかりで奇跡のような世界だけど、同人誌を作る場面は込み上げる何かがあった。ものづくりの経験がある人にはきっと共感できる部分だと思う。
夢中になること。ほとんど狂気的とも言えるほど、寝食を忘れて没頭し、何かを作りあげること。頭の中にあるものを、どうにか他者にも見える形にする。考えていたものは重厚で可能性に満ち溢れていたが、いざ形になると貧相に感じる。それでも、無かったものをここに作り上げたという事実がある。それは美しいことだと思う。
実際には泥の中をもがくような時間だったとしても、最後には終わった安堵感と、作品を完成させた達成感が自分を満たしてくれる。
お疲れさま!と拍手をしたい。

登場人物達の心情の描写も丁寧で良かったが、私はどうしても押入れに向かう主人公の背中が強く印象に残った。