ばふらー

マイ・ブロークン・マリコのばふらーのレビュー・感想・評価

マイ・ブロークン・マリコ(2022年製作の映画)
4.0
マリコの喪失からしか始まらないこの世界の、やり切れなさ。

・実写化について
実写化で生々しさが増すかと思ったが、想像したほど湿度が無くて疲れずに観られた。原作に沿ったコミカルな演出と、永野さん(シイノ)の存在がそうさせた気がする。シリアスな描写も鈍ることは無く、奈緒さん(マリコ)の叫ぶ声には迫るものがあった。
書籍で自分のペースで読むのとは違うため、区切られたような会話の流れには少し違和感。
音楽を盛りすぎないのはよかった。ただ田舎は虫がうるさいので、環境音が綺麗な部分の抽出だと感じた。(展開を妨げるノイズを排するのは悪いことではない)

・勝手な解釈を含んだ感想
マリコが飛び降りた理由はマリコ本人しかわからず、死は一切を消し去った。どうして、という第三者の疑問が解消されることはない。
それでもシイノは遺骨を抱え、街中の喧騒や上司の怒号から離れてマリコの言葉を聞こうとする。マリコが生きていた時間のことを、喪失感で上書きされないように、繰り返し思い出す。旅の中で、シイノはどんどん乾いていくように見える。

マリコの家庭は内側から崩壊し、環境に追いやられ、近付いて来るのはずるい人間ばかりだった。それらの中に彼女を救うものはなかった。
岬での「助けて」は、展開をわかっていても涙腺にきた。自傷という歪んだ形の意思表示に紛れ、真っ直ぐに受け取れなかった言葉に飛び出すシイノ。もう取り返しのつかない、手の隙間をこぼれ落ちていく遺骨が綺麗で悲しすぎる。

マリコにとって、シイノだけが唯一まともだった。
シイちゃんから生まれたかった、という言葉。まともな愛情を、無条件に与えられたいという願い。繋がりや同化を求める彼女の、諦めを含んだ声が寂しい。

手紙のシーンが原作と同様に本文がわからないままでよかった。シイノの表情と頷きに、喪失感を上回るマリコへの愛おしさがつまっていた。心臓がギュッてなった。

映画として原作から更に一歩踏み出した作品ではないが、原作の空気感を壊さないように丁寧に作られていて嬉しかった。