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私だけ聴こえるのolnのレビュー・感想・評価

私だけ聴こえる(2022年製作の映画)
3.4
世界は1つだと言うけれど
そんなことは私じゃない誰かが描いた幻想だ

私はCODAで
ろう者でもなくて
聴者でもない
どっちつかずの宙ぶらりんな世界に浮かぶ

居場所を与えてくれない世界なんか捨てて
聴こえることに鍵を掛けてしまいたい
願いは空を切って世界は今日も音に溢れている

声と声の間に感情は流れていく
深く沈んだ気持ちのすくい方はきっとそれぞれ見つけていく
私は私、それでいいんだ





感想です。

”コーダ あいのうた”で入門編を履修した今年、中級編とでも呼ぶべきような内容の本作が公開されるとなれば、観ないわけにはいきません。スケジュールの都合で鑑賞予定をずらし、偶然にも監督の舞台挨拶付きの上映回で鑑賞し、イギル・ボラという出自がコーダの韓国人監督さんとの対談を聴けました。

聴者の方がマジョリティである世界にあって、作中のコーダは「ろう者になりたい」と訴えます。作中にもあったように、ろう者から聴者の子供が生まれた時に、医療スタッフが「喜んでください、娘さんは聞こえますよ」と言ってしまう世の中なのに、何故それでもコーダ当事者は能力を1つ失いたいと言うのか。監督曰く、「親がろう者で、それが当たり前の世界で生きてきたから」だそうです。
もう少し言葉を足すと、ろう者のコミュニケーションは、必ず目を見て意志を伝えます。お互いに相手を見なければ、”会話”が成立しないからそうするのですが、聴者のコミュニケーションは、必ずしも相手を見る必要がありません。これは、コーダが最初にぶつかる壁の1つなのだそうです。
必ず顔を向けて相手を見る世界を温かく思い、顔も見ずに完結できてしまう世界を冷たいと感じてしまう。2つの世界を知るコーダは、温かい世界に居場所を見出したいけれど、体は聴者、心はろう者という葛藤を抱えるそうです。
生きてきた環境によって考え方が変わるということを、また1つ新たな視点で思い知らされました。

舞台挨拶付きの上映回はなんとなく避けてきたので、初体験の舞台挨拶付き上映回、しかもろう者の方が3席隣に座った初の映画鑑賞体験。
舞台挨拶終了後にシアター内で、パンフレットの販売会&監督のサイン会をしますとアナウンスされ、事前にパンフレットを買っていればサインのみでもOKだったようですが、事前にパンフレットを買っていた私は、10人はいかない程度に並んでいる人を見て、「待ってもマジックで名前書いてもらうだけだし、まぁいいか」と思ってシアターを後にしました。
価値観って人それぞれですよね。

追伸
最近ちょこちょこ目にする、バリアフリー上映の作品でした。私は聴者なので、ろう者の心情は判りませんが、ろう者も楽しめる作りのように思えましたし、舞台挨拶の脇には手話通訳の方が付かれていて、流石だなという構えでした。
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