吉田コウヘイ

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンスの吉田コウヘイのレビュー・感想・評価

4.0
開巻、仄暗いリビングに置かれた丸い小さな鏡に、楽しそうに揺れる人影が映っている。慎ましやかな音楽の波長と合わせて徐々にカメラがズームアップしていくと、どうやらアジア系の家族が3人、マイクを握り歌っている。

そんなふうに、これから始まるマルチ・ヴァースの物語を鏡で見事に表象したオープニングから、「永遠の重さと光の速さで」2時間20分間を語りきる、アイデアと技巧とプリミティブなギャグに満ちたプロフェッショナルなスラップスティック・アクション・コメディー『Everything Everywhere All At Once』。

ギャグとパロディをフルパワーで注入しながらクドいほど執拗に、何度もメッセージを叩きつける。ユダヤ系アメリカ人、ダニエル・シャイアートと共に共同脚本共同監督を務める中国系移民2世ダニエル・クワンの家族史、個人史を詰め込み、「最も個人的な題材が、最も普遍的な物語になる」というマーティン・スコセッシの教えの正しさを『パラサイト』に続き証明することになった。

アカデミー助演男優賞を獲ったKe Huy Quanが発する
「もし違う世界線でも、君と出会う人生を選ぶ」
というセリフが、同年に公開され大ヒットした、今作と同じく小説『三体』の影響を多大に受けた新海誠監督作『すずめの戸締まり』の
「わたしは、あなたの明日!」
という叫びと共鳴して乱反射しながら、わたしたちに生きる力を、光を与えてくれる。