喜連川風連

すずめの戸締まりの喜連川風連のレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.0
衰退国家日本に捧げる人間讃歌。川村元気×新海誠三部作で、1番好き。

童貞ジュブナイル要素のあった過去作の香りは全く無くなり、女性が主人公になることで一気にスタジオジブリ味が増す。

主人公・鈴芽ちゃんが開始5分で事件に巻き込まれ、「死ぬのは怖くないのか?」という問いに「怖くない!」と即答し、暗雲立ち込めるものの、しっかり説明が用意されていた。

彼女は、東日本大震災の被災者で、一度臨死体験をしているのだ。

「死ぬか死なないかなんて、運がいいか悪いかの違いだよ」と乾いて笑う彼女の言葉は重い。

一度大切な人を無くす体験をしているので、二度目のそれを防ぐために彼女は必死にあがく。

あがく過程で日本全国をロードムービーしていく。新海さんの筆致で日本中が記録されていく様子に胸が熱くなる。

立ち寄る場所も過去の歴史とリンクしている。西日本豪雨の宇和島(愛媛)、阪神大震災の神戸、関東大震災の東京の災厄を鎮めていく。

過去の思い出を忘れる行為と高度成長期に乱開発した街や思い出を忘れる行為がクロスオーバーし、業があふれ大災厄をもたらす。

彼が母親の作ったイスに変身する意味も象徴的。イスは誰かを支え、受け止めるために存在する。無償の愛を象徴するものだ。

過去のJapanアニメーション総決算という趣で、ジブリを筆頭にFATE、まどマギ、モノノ怪・・・ありとあらゆるアニメのオマージュが多数。

過去作にあったディテールの甘さもあまり見られず、日常のあるあるを切り取り、画面に説得力を持たせる。
・緊急地震速報
・懐メロブーム
・レトロブーム
・Twitterでの猫バズ

ただ、宮崎から四国に渡る船は現在就航されていない、方言がちゃんとしてない等のアラはあるものの、許容範囲内。

気になった点は、主人公の演技力(演技の引き出しが無く、叫ぶだけ)、厨二病全開の神々を鎮める呪文、ホストのような男性陣くらい。

MV要素も薄く、音楽が流れるタイミングで理由が掲示される。ルージュの伝言が流れながら、背景にクロネコヤマトのトラックが映る様子に思わず笑ってしまった。

思い返しもしなかったが「戸締まり」という行為は日常の象徴だ。日々誰かが毎日鍵をかけている。だが、人口減社会の中で、この日常が消えつつある。

その列島に住み、大切な人と「いってきます、おかえりなさい」を繰り返し、暮らしていく。

それはスズメほど小さく取るに足らないことかもしれない。それでも、小さな日常を積み上げていく幸せを噛み締め、今日も生きていく。

次の舞台は世界か?

追記

寓話的に災害を描くことに賛否あるようですが、古来より、地震はナマズの仕業等と語られてきた歴史があります。柳田國男氏が残した民話を読んでも、後世に教訓を語り継ぐために「お話」という形態が取られてきました。「お話」という形態の方が、事実よりも語り継がれやすいからです。

地震を寓話的に扱い、日本列島が持つ喜怒哀楽の土地史を後世に残すことはとても大事な仕事で、新海さんの仕事を尊重します。
喜連川風連

喜連川風連