喜連川風連

君たちはどう生きるかの喜連川風連のレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
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スタジオジブリ、終焉す。ジブリの盛大な葬式だった。

石(塔)の世界へと入るファンタジーパートではこれまでのジブリ的な要素がたくさん出てくる。

美しい石、不思議な動物たち、迷路のような時代不明の建物、能力を持った女の子との大冒険、意志の強い主人公・・・・
これらは、宮崎駿が過去、作ってきたジブリ映画そのものだ。

そしてこのファンタジー世界が崩壊の危機に瀕している。このことはペリカンやインコたちが飢えていることから分かる。つまり宮崎さんの死期が近い。

そこでファンタジーの世界を作っている造物主たる存在=大叔父が「私の仕事を継いでくれぬか?」と主人公に問うが、主人公はそれを拒否し、ファンタジー世界は崩壊する。

言わずもがな、後継者の現れることのなかったジブリ帝国の崩壊を暗示している。

これまで宮崎さんが作ってきた世界が一斉に崩壊するシーンは鳥肌が止まらなかった。

石の世界の中にはインコがたくさん集住している。

インコは人間の言葉をそっくりそのまま真似する存在だ。つまりその意味を考えずに模倣する存在を表している。

よって、宮崎駿に憧れたが、宮崎駿のコピーで終わり、オリジナル作品を作れなかったアニメーターたちを暗示している。

宮崎駿を見かけだけコピーする存在が下層部にたくさん住んで、人間たち(客)を食い物にしている。

インコの下っ端が大叔父(宮崎駿)の作った庭園に入る際「こんな世界、見たいことない」とつぶやくのが印象的である。アニメだけを模倣し続けてきたものには決して見えぬ世界があるのだ。

見かけだけのインコの王が、自分の世界を築くことができずに崩壊する描写は思わず鳥肌が立った。

鷺(サギ)の意味について。エジプトでは日の出を最初に迎える鳥と考え、また冥界の支配神オシリスの心臓から飛び出た鳥ともされて、再生の象徴とされる。北欧神話では、未来を知り尽しながら沈黙する鳥とされ、石をくわえた画などがある。

サギという日本語名からミスリードしながら、死と再生の象徴としてサギが存在している。

「ファンタジーが力を持たなくなった時代」としきりにインタビューで語っていた宮崎駿。

それはファンタジーの世界から帰ってきた者たちがその記憶を持っていないとされることからも分かる。

つまり我々観客は映画を見ても「あー気持ちよかった」で終わり、結局映画は忘れられてしまうのだ。

真人少年は、宮崎吾朗の暗示だろうか?真人少年の傷は何を暗示しているのか?これは宮崎吾朗が一度アニメの道に入らなかったということを現しているのではないか?一度、道を逸れた者が跡を継ぐことないのか。

それでもそこから石(意志)を持って帰ってきた真人。

真人は、困難な時代にあって「友達を作る!」と語る。奇しくも宮台真司さんがこの世を生き抜く術として語っていることと同じで鳥肌が立つ。

曇りなき眼で、この世を真っ直ぐに見るような後継者は現れない。宮崎吾朗は駿の跡を継がず、ファンタジーは崩壊するのだ。

エンドロールは、スタジオジブリ社員総出演。総務部からジブリパーク担当者までその名前が見られる。葬式のエンドロールか?

現実を描く前半パートから冒険活劇まで。宮崎駿さんの集大成と、スタジオジブリの盛大な葬式。

もはや面白いか面白くないかの外側に位置するカルト映画を世に大きく放ったスタジオジブリと鈴木敏夫さんに大きな拍手。
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