ギズモX

すずめの戸締まりのギズモXのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
3.6
※ネタバレ注意

新海誠最新作。
幼い頃に東日本大震災で母親を亡くした高校生のすずめが、ある青年との出会いがきっかけで地震災害を呼び込む扉の存在を知り、日本各地の地震を止めるため戸締まりの旅を始めるロードムービー。

震災のトラウマを抱えた少女が地震を止める旅を通して成長する物語として見るなら良作だとは思う。
ところがこの物語は致命的なミスを犯している。
東日本大震災をトラウマをえぐるレベルで描写しておきながら、なぜ熊本地震や阪神淡路大震災の言及が一切ないのか。

物語の発端となる宮崎では最序盤で震度6弱の地震が発生する。
九州で地震と聞いてまず思い浮かぶのが2016年に発生した熊本地震だろう。
僕は当初、地震の被害にショックを受けたすずめが、悲劇を二度と起こすまいと各地の地震災害を止める決心をする、そういう展開になるんじゃないかと予想していた。
しかし、実際には被災後の宮崎の様子は少ししか描かれておらず、地元の被害そっちのけでコミカルな音楽を鳴らしながら次の目的地にへと向かってしまうのである。
ふざけてんのか!
その後も何度か宮崎がチラチラと映るけど、まるで何事もなかったかのような様子で被害状況も修復も全く説明されてない。

そして中盤では神戸が舞台となるが、そこでもあの阪神淡路大震災に対して何も触れておらず、神戸に住んでるホステスも地震を止めに行ってたすずめに対して「こんな夜遅くにどこほっつき歩いとんねん」と言うだけで、被災地が歩んだ復興までの道のりを無視している。
まるで『フォレストガンプ』だ。
神戸の次は東京にへと移っていくが、2004年と2007年に地震で大きな被害が発生した新潟が忘れ去られているのもかなり酷いと思った。

僕は阪神淡路大震災で家族を亡くされた方の体験談を直で聞いていて、熊本地震が起きた数ヶ月後に被災した阿蘇の様子も実際に見ているから、こんなことされてしまうといつか忘れ去られてしまうんじゃないかって不安になる。

なんでそうなってるのかというと、この物語の中で実際に被災したトラウマを抱えているのがすずめただ一人だからだ。
同じく人間の力ではどうにもならない災害の傷跡を映した『シンエヴァ』では、ニアサードインパクトで多くのものを失っても力強く生きていこうとする第三村の人々にシンジが感化されていくといった全体的な目線で話が進められていた。
しかし、この『すずめの戸締まり』では、旅を通して多くの人が登場するも、そこにはトウジやケンスケのような同じ傷を抱えてる人はおらず、話が自分自身の傷を癒す個人的な形で終わってしまっている。
構想やキャラクターはとても良くできていると思う。
だからこそ、視野を広くしてもっと練って欲しかった。

設定にも難ありだ。
当たり前だけど地震は廃墟や人の気から出てくるものではないし、人間の力で事前に災害を止めることは不可能だ。
だけど、備えることならいくらでもできる。
大切なのはそういうことじゃないの?
あと、ダイジンは何をしたかったんだ?

この映画は避けられない悲劇をどの様に受け止めていくかといった、悲しみの五段階のような構造をしている。
確かに失ったものは完全には戻らない。
だけど、人間にはできる限り元に戻そうとする力が備わっていることを忘れてはいけない。
悲しみの後には"復興"がある。
僕は今でもそう信じてる。
廃墟で終わらしてしまっては、すずめ達は本当の意味で報われない。
救いが必要だ。

【追記】
東京が晴れてたのは卑怯だと思った。
その後の帆高と陽菜さんが見たかったです。
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