えむえすぷらす

すずめの戸締まりのえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.9
テーマ的には『君の名は。』にあったような災害で喪失した人の受容を描いている。というか受容という部分がもっと比重を増したというべきか。
冒頭部は唐突。登場人物が限られているにもかかわらずいきなりの展開。そして主人公の決断の速さはともかくとしてというかんじで強引にロードムービーへとシフトする。
『君の名は。』は奇跡的なバランスがあって曖昧なところがあまりトゲにならないもっともらしさがあった。本作はそういうのはもうファンタジーだと割り切っていてテーマに対してどれだけ実直・誠実に描くかというところに集中している。

その上で最後に主人公は幼少期の体験の意味を知る。災害での喪失の受容は他者によって与えられるものというのは物語ではとられがちなアプローチ。実際の体験としてそう思ってしまうのはあくまで本人であり、いない人が何かしてくれての結果だったりはしない。本作はそれをストレートに見せてくる。そういう率直さは辛くないかと思った。人が悲しみに耐えるキャパシティには限界がある。だから誰かによってもたらされたと思い込みたい許しみたいなものが生まれる。本作はそれが何かストレートに示してきた。その通りだとは思う。でもそれはフィクションの使命の放棄に思えるのです。
(追記)椅子はフィクションとしての鍵の役割は担ってはいる。ただその前にもっと強度の現実があるというのが新海監督の示す喪失、傷跡の受容のあり方なのだろう。

神戸を描いた事について。災害被災地の一つであり1995年で変わってしまった光景(随分と空き地が生まれ、そして新しい建物は建てられずにコイン駐車場になっている場所は少なからずある)は元に戻っていない。そういう欠落した復興は漏れてしまっているのは振り返ってみると惜しかった。