えむえすぷらす

君たちはどう生きるかのえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)
5.0
宮崎駿監督による宮崎駿監督作品に影響を受けた2010年台以後に大ヒットしているアニメーション映画を引用し返してみせる事で最前線にいることを示そうとした作品。必ずしもうまく行ってはいないが大失敗でもなく。これでおしまいにはしないで欲しいなと思った現役作家作品。

新海誠監督は『君の名は。』でファンタジー世界を構築したように見えて実は辻褄の合わないところをそのまま突っ切っており、その点は『すずめの戸締り』で寓話として下手な掘り下げ、考証をしない方向で修正して東日本大震災というテーマを直接扱う方に変わった。

宮崎駿監督はファンタジーも寓話的な物語も両方送り出してきた。寓話的物語としては『千と千尋の神隠し』があり、この作品ではある条件をクリアしないと元に戻れないという物語推進力があった上で色々なファンタジー的なガジェットや比喩が盛り込まれた。
緻密な世界観によるファンタジーは『ナウシカ』『もののけ姫』があって両作とも精緻さでは圧倒的で世界のファンタジー作品に比肩するものになっている。そういう作家が再び寓話的な物語を近代歴史を背景にして作ってきたのは前作に連なる「時代」である事と監督の幼少期に近い時代(実際には主人公は監督より10歳ぐらい上の存在になる)の災害に等しい戦争を背景にアニメーション作りや母親を恋人のように描く憧れや子供のいる相手を選ぶ義母の愛のあり方など盛り込むという異形な作品になったように見える。

女性の描き方は『もののけ姫』で強さ、独立した個人としての在り方を示したが、『風立ちぬ』であの時代の制約の中での最大の抵抗というところに弱まっていた。本作は今回、母親と義母になる人の母としての強さ、恋する女性としての幸せなど独立した人としての強さとは違う存在としていた。運命がわかっていてなお選択する理由が結局母性でしかないというのはあまりに原則過ぎて結局男女役割論になってしまうところは大きな後退に思える。寓話なのに当たり前すぎる提示。ただそこに生々しい男女間の性愛とその結果みたいなものがあるというのはやはり異形というしかない。

欠陥が目立つ本作、それゆえに最前線に立つ寓話作家としての矜持みたいなものは感じる。それではファンタジー作家としての総決算は『もののけ姫』までなんだろうかとは思ってしまった。