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すずめの戸締まりのRickのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.8
 時に何の理由もなく失ってしまうことがある。二度と触れることは能わず、二度とその姿を目にすることも、その音を耳にすることもできない。「何故?」と理由を求めた所で何も帰ってこない。自分の力ではどうすることもできずに、ただそこから消え去ってしまうだけ。あまりに大きな力の前にただ屈するしかない、仕方がないと言い聞かせながら。過ぎ去った物事を受け入れるには、身を切るような痛みを伴う。暗闇の中にいれば尚更、その絶望は果てしない。けれども、ただいまここに生きている以上、見失ってはならないものもある。大事にしなければならないものもある。戸締りをして進まねばならない場所がある、再び帰ってくるために。
 新海監督がずっと向き合って来た、「喪失と奪還」、「大いなる世界と小さなセカイ」のエッセンスがそこらじゅうに散りばめられていながらも、時代の雰囲気や価値観の変動に寄り添って「アップデート」し続けて来た結果としての集大成(その意味で、ずっと集大成を作り続けている監督でもある)。2016年以降、明確にターゲットを「若い層」に絞り希望に溢れたメッセージを送って来たが、前作『天気の子』があまりにも「セカイ系」の終わりを象徴するようなものだったため、何を語るのかに関しては、かなり不安視もしていた。けれども実際には、これまでやってきたように、セカイを描きながらも、どんどんと外側の視点を入れていくことの延長線上に進んできただけだった。そこに気づけるようになったのは、自らが成長してきたからだろうか、新海監督も意図的に同様に視野を広くしているのだろうか。どうにも新海作品には心をかき乱されっぱなしだ。一方で、ずっと変わらない「セカイ系」的な関係性の築き方は、だいぶ今の自分と離れてきてしまった気もして、少し寂しい。だがそれは、もっと下の世代が楽しめばいいことだ。
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