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オッペンハイマーのmaverickのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.7
2023年のアメリカ映画。監督はクリストファー・ノーラン。世界初の原子爆弾を開発した理論物理学者ロバート・オッペンハイマーの半生を描いた伝記映画。第96回アカデミー賞で作品賞を含む7部門を受賞した。


鑑賞後の衝撃が半端ない。意外だったのは、思ったよりも人間ドラマだったこと。ロバート・オッペンハイマーがどのような人物だったのか、その人となりを描いた物語であった。天才物理学者として、ひとりの男として、彼がどう生きたのかを知ることが出来る。本作でアカデミー賞主演男優賞を受賞したキリアン・マーフィー、同じく助演男優賞を受賞したロバート・ダウニー・Jr.の演技が素晴らしく、その他にも、フローレンス・ピューやエミリー・ブラントなど、役者の上質な演技に魅了され、中盤までは彼らが織り成す人間ドラマをじっくり堪能する喜びがあった。それが一変するのが人類史上初の核実験「トリニティ」の描写の場面。映画としてもここが山場だし、その衝撃は半端ない。爆発と爆風の表現は広島、長崎を確実に連想させる。成功に喜ぶ一同の姿も含め、日本人としては胸がえぐられるような感覚に陥り苦しかった。劇中では直接的な原爆投下の描写はない。それでも受ける衝撃はずしりと重い。覚悟はしていたが、これは想像以上だった。オッペンハイマーを描いた人間ドラマでありつつ、彼が生み出してしまった原子爆弾の脅威と恐怖を描いた話である。「原爆の父」と呼ばれたオッペンハイマーへのイメージも大きく変わったし、原子爆弾そのものの認識も大きく変わった。この作品を観て、それぞれがどう感じるか。それが大事なのだと思う。

直接的な原爆投下の描写が無いことは賛否両論だと思う。でもこれは監督の意図した描き方であり、これによって表現出来る怖さは十分にあった。オッペンハイマーは自身の犯した罪に苛まれ、その苦悩の姿からもそれは伝わる。この映画がアメリカで作られたことの意味は大きい。伝記映画としての歴代興行収入トップとなっていた『ボヘミアン・ラプソディ』を抜いて歴代1位の作品になり、多くのアメリカ人が本作を鑑賞した。日本人と同様に衝撃を受けた人が大勢いると思う。ノーラン監督の映画であり、話題作であるからこその大多数の動員である。この映画が世界の人々の認識を大きく変えることに繋がり、それは称賛に値することだ。納得のアカデミー賞受賞だと、自分はそう頷けた。


3時間があっという間だった。俳優陣の渾身の演技と、クリストファー・ノーラン監督によるリアリティに満ちた作品性に、ただただ圧倒される。史上初の原子爆弾はどのように作られたのか。そのプロジェクトを任されたロバート・オッペンハイマーという男は、どのような人物であったのか。これは観るべき作品だと、そう呼ぶに相応しい。本作を観てどう感じ、どう考えるか。我々はそれを求められているのだ。
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