いしはらしんすけ

生きる LIVINGのいしはらしんすけのレビュー・感想・評価

生きる LIVING(2022年製作の映画)
3.4
第95回アカデミー賞で脚色賞と主演男優賞の2部門でノミネートされた、ご存知黒澤明の同名映画のイギリス版リメイク。

当たり前の話だが場所と人物は英国仕様になっているものの、なんならそれが最も目立つ相違点と思われるほどで、概ね原典忠実系と言えそうです。

詳しくはわからんけど画面のサイズとか映像の感じもクラシックな方に準じてる上、時代設定もオリジナルとほぼ同じ...ってこの1953年ってのは元のやつが公開された翌年なんだが、もしかして英国公開年だったりするのか?

ぶっちゃけ黒澤の方観たばっかでその普遍性に感心しきりだった身としてはむしろ諸々現代社会に置き換えることを期待してたんだが、やっぱ家族の件を温存しようとすると昔にせざるを得ないのかな?

あとそこをオミットして行政批判の方にウエイトを乗せるとどんどん「わたしは、ダニエル・ブレイク」に似てきちゃうというジレンマがもしかしたらあったのかも。

そんな訳で主なエピソードや印象的なシーンはほぼほぼ踏まえられている...けど思いのほか観後感が異なるのが面白いっちゃ面白い。

それは中盤から回想に戻っていく構造こそさすがに踏襲しつつ、後半で語りの順序を入れ替えてる、やはりここが最大要因ですかねぇ。

加えて演出全般あっさり風味なんで、なんかマイルドな美談みたいな仕上がりになってませんかっていう。

ま、結局そのへんラストに集約されんでしょうね。要はかの有名な公園ブランコ、あれを最終盤に持ってきていて、そりゃ必然的にエモが優るわな。

ただこの話でそれやっていいのかなぁとニワカの分際ながら思っちゃいましたよ、カズオ・イシグロさん。

他にもブラックなコメディ要素がなくなってるとか「あの若い女子、そうなっちゃうの?」とか「ゴンドラの唄」の代わりのスコットランド民謡、曲はいいけど上手く歌いすぎじゃね?とか、どうもベクトル的に好みじゃなくって。

クライマックスであるはずの通夜のシーンもそもそも葬儀にまつわる風習が違うのでここは大幅に改変せざるを得ず、その結果ラストとは逆にやけにぼんやりしちゃってて残念。

どうもオリジナルへのリスペクトが諸々裏目に出てると個人的には感じてしまった「うーん、そっちかー」な1作でした。