ウサミ

女子高生に殺されたいのウサミのレビュー・感想・評価

女子高生に殺されたい(2022年製作の映画)
4.2
女子高校を殺したい、なら気が悪くて絶対に観ないんですけど、女子高生に殺されたい、なら、まあそれならええか…的な謎の倫理観のズレが僕の中で発現しました。どっちも同じくらい絶対ダメなんですけど。

本作の面白味は、ド変態が最悪の完全犯罪を進める狂気的フェティシズムを全面的に感じさせつつも、どこかその計画の行方に興味が引かれてしまう点だと思います。
観客が感じる「無垢な少女に人を殺させる」ことへの罪悪感を、様々なファクターでぼやかして薄めさせて、いつしかゆがんだ性癖に共感(はしないけど、応援?)してしまうような脚本の作りが、なかなか見事だなと思いました。
主人公も、自分の殺害により女子高生が罪に問われることは望んでおらず、あくまで完全犯罪(されること)を持ってヨシとしています。
ああ、完全犯罪なんだ、じゃあ存分に殺されりゃええやん… いや、よくないけどね。

例えば、猟奇的な殺人犯を主軸に描く作品は日本映画にもあります。ただその多くがどこか浅い、反感のみが前面に出た造形にとどまりがちである印象です。
本作も、ある意味狂った犯人像を描く作品なのですが、そういった類の作品と比べると、「倫理観の逆転」を手に取ることで、観客を奇妙な共感に引きずり込んでしまう、新たな切り口としてとても面白いなと思います。

気まぐれで昔原作を読んだことがあるのですが、原作に比べると、映画化に伴い様々な要素が加わっており、結果として一層エンターテイメントが深まっていた印象です。

原作には存在しないキャラクターが複数人登場し、「誰に殺させるのか?」のミステリがうまい具合に深まりつつ、計画が積みあげられていきます。
あまりにアドホックな脚本に辟易しつつも、それがむしろ一層おもしろさを際立て、主人公の変態なのに緻密なところが、どこか滑稽に思える、シリアスなコメディの様相を深めます。

個人的には、主人公の東山先生のような、イケメンで、美女ぞろいのクラスの担任で、生徒たちは優秀で、モテモテで、それでいて別に特段男子生徒に疎まれているとかでもなくて、元カノが大島優子で、あと他に何が要るんだろう?と思いますが、「殺される」ことでしか主人公は満たされないのだから仕方がない。

また、恐ろしいくらいに、本作は主人公が「高校でモテモテ男教師を務める」ことに付随して発生するであろうマイナスイベントが排除されていて、例えば仮にヤンキー高校とか学級崩壊したクラスだったらどうなっていたのだろう?と妄想してみました。まあ、彼の赴任先の高校がそんな「ノイズ」が排除された舞台であることも含めて、主人公の完璧な、彼に言わせれば「運命」である、と、妙に納得させられてしまいました。
しかも、完璧な舞台に対する違和感が作品をつまらなくさせることは決して無く、むしろ不要なストレスを極力排除し、狂った"被"殺害計画を、エンタメ的に書き上げるのがとても素晴らしかったです。
(あまりに女子生徒に好かれていることが起因となり男子生徒から恨まれ、何らかの報復を受けるも、それを華麗に捌き、むしろその反抗心を計画に組み込んで利用する、とかだと面白そうですけどね)

この殺害され計画を成功させるには、殺されるためのアプローチの中で、クラスの女子生徒をコントロールできるくらいにモテる、という最大で最高のハードルがあるのですが、主人公は見事にそこを超えて見せます。
もし主役がギトギトのオジサンだったら、本計画(というか本作品そのものが)成立しないわけです。

彼は、見事な手腕で生徒たちの心に侵入していきます。
「東山先生は自分にとって特別な存在だ」と思わせるのではなく、「東山先生にとって私は特別な存在だ」と思わせることがポイントで、もしかしたらそこにモテるヒントがあるのかなと思いつつも、僕には難しいだろうと卑下しつつ、ただ女子生徒に顔を近づけて膝をくっつけたり、さらりとけがをした手首にやさしく手を当てたりするのは、いくら何でもキモイやろと、主人公に対する反感と共感をちょうど同じくらいの割合で、かなり抑揚をもって鑑賞できました。
もし、女性にとってああされるのがドッヒャー!!☺️なら、世の中とはなんと不平等なんだろうと思います。

肝心の殺人部分がやや大味であり、作品の根幹部分に興味を惹かれなかった人にとってはなかなか荒唐無稽でついていけないのでは、と思いました。
が、個人的には作品の落とし所が分からず、いい具合にハラハラ出来たので、とても楽しかったです。

半ば無理矢理にオチていくのですが、もはや、単純に河合優実が演技すれば泣くというパブロフの犬状態。
なんか知らんけど泣いてしまったり、本作の素晴らしい(ストレートな)フェティシズムを見事に抑え、七色の女子高生を生み出し、存在しないはずのイマジナリー美人同級生を僕の中に作り上げた城定監督の手腕に、この人もなかなかフェチ野郎だなぁと思いました。
ウサミ

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