ウサミ

哀れなるものたちのウサミのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.2
まずは、この壮大な芸術映画であり哲学映画である本作を、R18+で無修正で公開され劇場で大画面で鑑賞できることが、とてもうれしかったです。

ヨルゴスランティモスの映画は大好きで、中でも『聖なる鹿殺し』はサスペンスの最高峰だと思っています。
グロテスクで不条理で、批判的・風刺的な知性があって、でも最終的には荒唐無稽なブラックコメディくらいの落としどころがたまらなく好きで、かっこいいからです。
なので、本作もとても楽しみにしていたし、非常に評判がよかったので、大いに期待していました。

僕の想像を超えるほどに作りこまれた作品で、スクリーンで圧倒されてしまいました。
この奇妙な映画による映像体験は、幻想的で、夢中になれるものでした。

自殺した妊婦の死体を持ち帰り、腹の中の赤子と妊婦の脳みそを移植して蘇生させた医師。見た目は大人、中身は子供の奇跡の女性は、凄まじいスピードで発達していきます。
ヨルゴスランティモスらしいグロテスクさと不穏さをまとった、非常にセンシティブな作品となっています。
しかし、やや説教臭いというか、テーマ先行になっている印象があり、先述の『聖なる鹿殺し』や『ロブスター』に比べると、個人的には少々肩透かしの印象があり、完全にはのめりこみ切れない自分がいました。

これはあくまで私の主観ですが、ヨルゴスランティモスの作品は、風刺・不条理・荒唐無稽を本懐として、人間の醜い部分やむごい部分を浮き彫りにしつつ、最終的には「愚か者」が滑稽に踊るブラックコメディ、くらいに思っています。本作も、ラストシーンの圧倒的なシャープでグロテスクでブラックなオチは最高に最高でしたが、映画全体としては、あの切れ味抜群の空気感を味わうことができる瞬間が、やや少なく感じました。

支配するもの→されるもの(特に男→女)の社会構造が抱える違和感と矛盾を、イノセンスな存在がぶった切る爽快感と知性の利いた風刺が魅力的で、やがて彼女により「支配するもの」と「哀れなるもの」の境目が曖昧になり、繋がっていく展開がとても見事です。しかし、、、

何だろう、個人的にエマストーンが好みじゃないからなのかもしれないですが、彼女の存在そのものが説教臭いというか、イノセンスを盾に正論の暴力をかます感じが、爽快感がありつつも、どこか上から目線のいやらしさを感じてしまったのです。

「支配するものの理不尽→それをぶった切る→支配するものこそ哀れなるもの」という構図が、いつしか観客が「正義の立場」に立つことができてしまう、ともすれば、自分のことを棚に上げて「社会はおかしい!!」と言いたくなってしまうような、そんな危うさを感じてしまったのは僕だけでしょうか?
ヨルゴスランティモスの他の作品は、主人公こそが最も愚かであり、哀れなるものだったのに対して、本作はどちらかというと、主人公はある種、神のような存在であり、彼女の前では無力、という構図があるように思えます。すると、観客として、彼女の存在を盾に、哀れなるものを見下ろすような視点が生まれてしまうようにかんじました。
「哀れなるもの」に対する視点が、どこか上から目線で、そして「傍観者」の立場で観てしまった。それゆえに、本作のテーマを社会問題として融和させて考えた時に、傍観者の視点から好き勝手言っている自分自身にぞっとしてしまう、そんな恐ろしさがありました。

クソみたいな男が滅多撃ちされる展開は面白いし楽しいですが、ただ「男性をバカにすることが女性の地位向上」とは思えない。ヨルゴスランティモスの真意は読み取れませんが、本作がそういった社会問題を斬る作品なのだとしたら、いささか苦笑いしてしまいます。

ただ、欲に塗れたクソヤローのザマーミロの堕落と、ぶっ飛びガールの珍道中のコメディとして振り切って観ればもっと楽しめたかも。
何にせよ、このレベルで濃い作品を映画館で普通に見れることに感謝カンゲキ雨嵐。
アカデミー注目作らしいやん!くらいのテンションで映画館に入った方に、是非映画作品の混み入った面白さを味わってほしい。

セックスシーンが多くストレートで下品です。バイオレンスは無いですが、臓器などグロテスクなシーンが多いので、苦手な人は一応注意。グロを見せる作品とは思わないので不快感は無いですが、気色は悪いです。個人的には「ロブスター』の方がゲロキモいので、あっちがみれた人なら平気。
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