か細い声で答える「はい」ぐらいしかケイコの声は聞こえてこなかったけれど、でもその表情でその手で文字で伝わってきたケイコの感情。良い映画を観たなと思える映画だった。
背が低くリーチが短い、加えてセコンドからの指示は聞こえない。ボクシングにおいて不利な要素を持ち合わせているケイコの闘う姿に、素人の私はハンデを感じなかったけれど、でも、「応援が力になりました！」とよく聞くスポーツの世界で、たとえリングに上がれば独りだとしても、その独り感は強くなりはしないのだろうか、とは思った。
だから、無観客での試合には、その光景の違和感とは別に思うところはあった。声が聴こえないことと姿がないことは、やっぱり違うのだ。
お姉ちゃんを強いと思ってる聖司に、私は強くないと答えるケイコ。ケイコの心の中はザワザワとしていて、お休みしたいという思いをきちんと伝えることも出来ない。だから、誤解を与え、怒らせもしてしまう。そんなケイコの心の中を見透かしたかのような会長の言葉に、あぁだからケイコは会長を信頼しているのかなと思った。
ジムを畳むと決めた会長と、ボクシングから距離を置こうとしているケイコ。でも、強烈に惹き付けられているものから離れるのは難しい。心の霧がフッと晴れたような、良いラストだった。
#3_2023
