ミヤザキタケル

コール・ジェーン ー女性たちの秘密の電話ーのミヤザキタケルのレビュー・感想・評価

3.6
近年アメリカで再び揺れ動いている人工妊娠中絶問題。本作で描かれるのは、まだ中絶が憲法で認められた女性の権利ではなかった1960年代アメリカ。望むぬ妊娠に直面した人々を、違法ながらも救おうと活動していた団体「ジェーン」の実話。

宗教や思想によって考えはさまざまであるものの、何かしらの事情により中絶へと至ってしまうことへ理解が及んだり、中絶が違法であることに違和感を覚える人は一定数いると思う。だが、そういった感覚を抱くことができる背景には、言わずもがな先人たちの苦労や努力がある。リスクを背負って、犠牲を払って、その胸に芽生えた使命を果たそうと行動を起こした人たち、その礎があってこそ、僕たちの生きる“今”がある。「ジェーン」の活動を通してその事実に気付かされるのと同時に、託されたバトンを次の世代へ繋げることができるのか、はたまた、受け取り損ねて途絶えさせてしまうのか。その行く末を決めるのもまた“今”であり、行動を起こさなければならいのは僕たち自身なのだということを自覚させられる。

また、好みは分かれてくると思うが、決してシリアスになり過ぎない物語の描き方にも好感が持てた。題材的に「重いだろうな」と覚悟して臨んだものの、いざ蓋を開けてみれば想定していた重さは感じられず、肩肘張らずに彼女たちの姿を目にすることができていた。というのも、主人公であるジョイの在り方による恩恵が大きいと思う。

はじめから志の高い人物が描かれ、さまざまな壁にぶち当たり乗り越えていく様を目にするのも、それはそれで胸打つものがあるだろうし、引き込まれもするのだろうが、ジョイの場合は(裕福ではあるが)平凡な主婦。ともすれば僕たちと然程変わらぬ只の一般人。そんな彼女が妊娠と違法中絶の果てに、半ば巻き込まれる形で「ジェーン」の活動に参加し、次第に中核メンバーになっていく。つまりは、隣り合わせに感じられる彼女の心に寄り添いながら物語を追っていけるからこそ、変に構えることなく物語を見届けられる。

扱っている題材は異なるのだけど、自分の知らぬことや歴史を知るという点において、2月公開の『夜明けのすべて』『カラーパープル』に通ずるモノを感じた。その2作を目にした流れであれば、自然と3月公開の本作に気持ちが向くのではないだろうか。後、過去作ではありますが『17歳の瞳に映る世界』は題材的にもマッチしているので、ご興味ある方には是非触れてみていただきい。