ミヤザキタケル

関心領域のミヤザキタケルのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
4.1
何て嫌らしい作品なんだろう(褒め言葉)。

アウシュビッツ収容所の隣に建つ邸宅で悠々自適に暮らす裕福な一家。焼却された人々の煙が空に立ち込め、絶えず怒号とも悲鳴とも取れる声や強制労働などにより生じているであろう雑音の数々が聞こえてくるのだが、一家は気に留める様子もなく平然と日常生活を送っている。あえて暴力的且つ残虐性の伴う描写は映さないという表現方法が、かえって観客の想像力を刺激し、その歪さを加速させていく(さながらハネケの『ファニーゲーム』的な…)。

そんな一家の異様とも取れる姿を延々と見せつけられ、只々辟易してしまうのだが、すぐに気が付くことになる。彼らの根底にあるものは、今を生きる僕たちにも確実に宿っているものだということに。劇中に登場する一家やナチスが行った行為を非難することは容易い。が、生まれた国や時代、受けた教育や育った環境が異なれば、僕たちだって彼らと同じ行為に至っていた可能性は十分にある。全ての人がそうであるとは言わないが、どんなに胸を痛めるニュースを目の当たりにしても、数分も経てばドラマやバラエティに夢中になり、翌日になれば気に留めることもない。自身や家族、身の回りの大切な人へ実害が及ばぬ限り、誰だって他人事で済ませてしまうのが現実だ。自ら進んで面倒事やリスクが伴う事柄に首を突っ込める人間なんて、そうはいない。

国や時代を問わず、誰もがその胸に宿す“無関心”。そこからもたらされる弊害の数々は、劇中よろしく数多の歴史からも読み取れるし、僕たちが生きるこの現実にも無数に存在する。その上で、僕たちはどう生きていくべきなのか。容易に答えを導き出すことなどできない問いを、本作は投げかけてくることだろう。