青年化学者のジャックが、毒薬モノチンを服用して透明人間になってしまう。
彼は毒薬の服作用で心がすさみ、殺人、列車椿事などあらゆる暴行を起こしてしまう…。
H・G・ウェルズの小説『透明人間』を映画化したSFホラー。
およそ80年前の作品。
当時『フランケンシュタイン』に続くヒット作を渇望していた製作会社の意向もあり、狂人となった透明人間が殺人を犯すという、サスペンスの要素が盛り込まれている。
古典ならではの味がありますね。
透明人間というアイデアの素晴らしさは今でも全く古びない。
どう料理してもそれなりに面白いだろう。
さすがH・G・ウェルズ。
しかしそうは言っても、『透明人間』を映画にするのは技術的に大変だ。
その点もこの映画は実によく撮ってあって、今観てもちっとも破綻がない。
現代と違ってデジタル技術がない分、その仕上がりの見事さにはなおさら舌を巻く。
そして同時に映画の本質的な魅力というのは、「あり得ないものを見せる」という魔力…「月世界旅行」から続く伝統的な力…にあるのだということを改めて認識させてくれる。
これだけ見事な特撮技術を見せてくれればそれだけでも十分なのだが、この映画はストーリーもしっかりしている。
どちらかといえば定型的で非凡とはいえないが、こちらにも破綻がなく、ホラーというよりサスペンスドラマとしてよくできている。
そしてちょっと諧謔味のある演出も楽しい。
あと、宿屋のかみさんのテンションの高さもすごい。
宿屋のかみさんがうるさいが、しかしそのかみさんも含め俳優の演技がいい。
それも透明人間に襲われるシーンのパントマイムなよさではなく、きちんと映画上としての演技のよさで。
主人公が少し乱暴な論理で凶暴さを出すシーンなど、台詞だけを見たら「は? 馬鹿じゃねぇの?」という感じで陳腐劇に陥りそうなのだが、包帯を巻いた俳優の演技や、その周囲にいる博士、警官、村人たちがおののくシーンとあわせて目に入ると、恐怖がぐぐっと伝わってくる。
…ところで透明人間で検索をかけるとエロいのばっかり引っ掛りますね。