思春期にありがちな 『勝手に部屋に入ってくんなよ』、な映画。
若干40歳にも関わらず、「ソーシャル・ネットワーク」や「グランド・イリュージョン」など多くの作品で主役を演じたジェシー・アイゼンバーグが自身のオリジナル脚本で撮った初監督作品。
個人的には、『頭はいいんだけど、ちょっといけ好かない奴』を演じさせたら右に出る者はいない優れた若手俳優というイメージを持っていましたが、俳優業のかたわらで、劇作家であり小説家の一面も持っており、雑誌『ザ・ニューヨーカー』にもエッセーを寄稿するほどの文筆家であることは知りませんでした。
■ 映画について
本作は、DVシェルター(夫から暴力を振るわれた女性等が、子供を連れて一時的に避難する施設)を運営する母と、自室からネットで自作曲のライブ配信を行うZ世代の息子の関係のすれ違いを描いた作品。
思春期で扱いにくい息子に手を焼く母親の話、というわけではなく、母親は母親でなかなかのくせ者。そんなクセのある母親エヴリンをジュリアン・ムーアが演じています。
出かける際、『一緒に車に乗せて!5秒で用意するから!』という息子を、本当に5秒だけ待って来なかったので放って置いていくような母エヴリンは、自己愛が強く、マイペースで空気が読めない性格。
ほかにも、施設の女性たちがささやかな誕生パーティーで盛り上がっているところに立ち入っては仕事の話で彼女たちを現実に引き戻すなど、おそらく悪意はないと思うのですが、ナチュラルにこういったジクジクした嫌な行動を繰り返しています。
息子は息子で厨二病全開。自室からネット配信で世界中に”まばらに居る”フォロワー達にギターで熱唱しているところに、母親が勝手にドアを開けたりするもんだから、冒頭のような叫びになるわけですね😓
そんなすれ違いの親子関係が続くなか、シェルターに、とある母親と息子が避難してきます。
避難してきた息子カイルはエヴリンの息子ジギーと同級生で、父親の暴力から母を守って避難してきた母親思いの息子。そんなカイルを見て、自分の息子はなんて駄目なんだろうって、さらに思ってしまうエヴリン。
果たして最後に、『僕らの世界が交わる』ことはあるのでしょうか・・というお話でした。
■ 感想
88分と短い作品でありながらも、巧みで精緻な人物描写と心の動きが表現された、素晴らしい脚本でした。
親の観点からは、今まさに自分が子供にやっている(過去やってきた)かもしれないという反省の思いを。
また、子供の観点からは、親を愛しつつ、だからこそ、一番自分に近い家族に当たってしまう心の葛藤を。
そして、大人としては、過去、自分が経験してきた思春期の思い出したくない恥ずかしい過去をかさぶたを剥がすようにほじくり返され、眉間にシワを作りつつ苦笑いするしかない映画でもありました。
いくら有名俳優とはいえ、制作と北米配給にA21が付き、「ゾンビランド」で共演したエマ・ストーンが、自身の制作会社『フルート・ツリー』の初作としてこの作品を選んだというのも、ジェシー・アイゼンバーグの実力が本物であるという証。
脚本や俳優だけでなく、映画の雰囲気にマッチした不協和音を奏でるシンセサイザー音、映画「アフター・ヤン」の撮影監督を招聘し、フィルムで撮ったというこだわりの映像など、全ての面で初監督作品とは思えない完成度だったと思います。
次作は既に完成し、公開を待つばかりとのことですが、できればもう少しスケールの大きな作品を観てみたいところ。とはいえ、公開が待ち遠しい監督が、また一人増えたことを喜びたいです。
■ 余談
【インタビュー】ジェシー・アイゼンバーグが初監督作で描いた、すれ違う親子の確かな“つながり” : 映画ニュース - 映画.com
https://eiga.com/news/20240118/10/
ジェシー・アイゼンバーグの人となりがよく分かるインタビュー記事を紹介。
『僕の人生での楽しみは書くことだけなので、常に書くものを探しています。』 というところに、すごく共感出来る内容でした😊