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ザ・ホエールのHARUのレビュー・感想・評価

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
5.0
👑2023年No.1候補👑

“優しさ”について、こんなに丁寧に描いてくれた作品は初めてだった。

優しさの結果、相手が救われればそれは奇跡のような美しい物語だと思う。それこそ“映画”みたいな。
でも、救うどころか、途中で諦めてしまうこともあるし、何も変わらないこともあるし、結果的に傷つけてしまうことさえある。
あるよね?わたしはある。
でもやっぱり、どんなに救えないとわかっていても、大事な人を気にかけずにはいられないし、どんなにわずかな縁だったとしても可能な限り傷ついてほしくないし、何か小さなことでも助けになるのなら救いたいよ。
望んでも一人では生きていけないんだもん、だからきっと皆が本当はそう思ってる。
他人に優しくしたいと思ってる。
そして、その思いだけでもう“優しさ”は十分なんだよ、って主人公チャーリーが言ってくれる。

その意味で、チャーリーを取り巻く人々は(スクリーンに映らない人々も含め)、一人残らず本当に本当に優しい人々だった。
いや、これを“優しさ”と描いてくれたことに心から救われた。(異論はあるだろうけど、わたしはダンが優しい人だと思うし)
傷つく一個の人間が相手である限り、何を言っても良いと言うわけではないけれど、それでも他人の言葉で決まりきった言葉など吐くより、下手くそでも正直な思いと声を信じよう、わたしたちは。


主題の中に“キリスト教”は確かにある。
でも、宗教と名前はついていなくても、確かに人の心には信じてすがりたい何かがあって、それは生きていくために必要なのであって(生きている限り許されたい罪は発生するし)、別にそれは異端でもなんでもないんだよね。
「救われたい」「救いたい」「許されたい」「許す勇気がほしい」「間違っていないと言ってほしい」「優しくできなかった」「優しさが報われなかった」「優しくしたかったのに傷つけてしまった」
そういう感情の行き先に迷ったことがあれば、この映画はわずかでもその着地点になり得ると思う。

エブエブの痛みがわかる感性を持つ人を大事にしたいと前に言ったことがあるけれど、この映画も同じ感覚になる。
この映画を観終わった時にようやく楽になれた人たち、いつか一度手を握って「わたしたちよく頑張ってきましたね」って話しましょう。
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