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GAGARINE/ガガーリンのHARUのレビュー・感想・評価

GAGARINE/ガガーリン(2020年製作の映画)
4.6
息をするように泣いた。こんな美しい“世界の終わり”は滅多にないよ。

悲しい、ではなくて、美しくて泣いたんだよね......
同時期に公開された『コーダ』はラスト20分で眼球溶けたけど、今回は冒頭20分以外ずっと涙が目に溜まってた。
なんだろう、ノスタルジーをずっとサワサワと刺激される感じ。
正確にいつ出会ったものかは思い出せないけれど、確かに懐かしい景色や匂いや色や音に触れた時、目元が熱くなるような感覚。
カンヌの宝石って称賛される意味がよくわかる。

舞台は宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンの名を冠した1960年代築の古い団地。パリ郊外に実在していて、映画も解体前のガガーリン団地で撮影したもの。
老朽化によって団地の解体が決定し、住人は名残を惜しみつつ退去していくんだけど、16歳の主人公ユーリは最後まで想い出の詰まった団地を去れない。現実逃避とも言える。
冒頭20分が少し間伸びしてる感じはしたけど、個人的にはそのマイペースさやアンニュイな雰囲気もフランス映画っぽくて好きだったな。
わかってるけどもう少しここにいたいんだよ。

ロケットにしろスペースシャトルにしろ宇宙ステーションにしろ、壁や重力や真空によって周囲の世界と隔絶された環境で生活している時点で、そこは一種の完成し完結した"世界"だと思っていて。
少なくともそう解釈すると、ユーリが作り上げた空間もまた確かに完成し完結した"世界"だったはず。
だからこそ、完成し同時に完結したひとつの世界が閉じていくのを、こんなにも美しく描けるものかと言葉を失った。

カメラは何度も何度も空を映し出すのに、ユーリの視線は地面に向くことが本当に多くて、梯子のシーンでのディアナの言動をより引き立たせてくれる。
もうすぐ閉じる世界でなら、少し目を閉じて手探りしてもいいよね、って背中を撫でてくれる。
宇宙の真ん中に1人きりのような気がしても、孤独ではないよ。
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