山本Q

ザ・ホエールの山本Qのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ホエール(2022年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

あのブレンダン・フレイザーの変わりようにびっくりしたけど、アカデミー賞受賞でまたびっくり。
それなら見てみるかと思いながらようやく今鑑賞。


これは良かった。
もの自体はすごく舞台っぽいけど、映画用の脚本なのかな?そして、監督ダーレン・アロノフスキーだったのか。うかつにもノーマークだった。劇場で見るとさぞや迫力があったろう。惜しい事をした。どおりで人が家にちょこちょこやってくるあたりに「マザー!」っぽさがあると思った。

これは脚本が素晴らしい、登場人物の会話でストーリーが展開して行く。映画的高揚感はそれほど無いが、劇としての面白さ・緊張感・迫力が素晴らしい。
ストーリー的なマジックも感じる。主人公を「ビックリ人間大集合」というようなテレビ番組でしか取り扱われ無さそうなキャラクターにしたのも面白い。ただ奇抜なためではなく、醜悪さが際立つほどチャーリーの亡き恋人に対する想いが際立っている事を表していてそれだけで泣けてしまう。
登場人物の描写も面白い、多面的な面を見せてあまり統合性をとる様子もなくお話の展開としているのは面白い。特に面白いのは、娘のキャラクターで謎が多いのにもかかわらず破綻していないのが面白い。彼女は「邪悪」なのか、「素晴らしい」のか。青年宣教師の嘘を告げ口したのはなぜか?鳥の餌皿を割ったのは誰か?
看護婦のリズも良かった。刺々しい態度の中に葛藤を抱えていて、その苦しみが伝わってくるので心が乱される。

これほど正直に上手に自分の中の気持ちを表すなんて現実ではできっこ無いけど、そういったもどかしさを取り払ってくる気持ちよさ、という部分も面白い。

このお話の起因が「誰かを深く愛した」というところも面白い。全体としては、やるせなく切ない話だけど、それは「誰かが誰かを深く愛した」から。そういう当たり前だけどどうしようもなさ、みたいな物をこんなお話として表現に結実させていることに感銘を受ける。素晴らしい。

相変わらず宗教的な側面があったけど、そのことで受け取り方は随分変わるのだろうか。

映画というよりは、芝居の演技の魅力を印象ずけられる作品でした。


原作は2012年に発表された劇作家サミュエル・D・ハンターの舞台でした。脚本もハンターさん。
ありがとうハンターさん。
山本Q

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