山本Q

哀れなるものたちの山本Qのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

「ロブスター」、「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督最新作。
不条理モノが大好物としては、もう待ち焦がれていた。
フランケンシュタインもので、博士がウィリアム・デフォー、怪物は少女の脳を移植された女性という。事前情報はそれくらい。
ネタバレの前に劇場が間に合った。


今作も素晴らしい。まず強烈なのは唯一無二な映画世界のオリジナリティ。他のどんな映画とも似ていない語り口調はますます際立っていたと思う。
作品は「女王陛下のお気に入り」の方向性に近く、「ロブスター」や「聖なる鹿殺し」のように不条理な要素はだいぶ後ろに引いている。その代わり、映画のあらゆる要素が奇矯なものを抱え込んでいる。かつ、今までの(シュールさを際立たせるための)リアリズムとも真逆に振ってきている。何があったのだろう?原作の影響はあるのだろうか。映画のルックも過去作からだいぶ方向性を変えてきている。見た目だけなら、ジュネアンドキャロやテリーギリアムの映画に見える。ただ、この方向性のコンセプトは彼らとは多分合致しないとも思う。衣装や美術、音楽は「当たり前じゃない」ことを目的としているのかと思うくらい奇抜で独創的(もちろんその前に、美しく面白い目と耳を楽しませるものになっている)。にも関わらず、どこまでもヨルゴス・ランティモス監督作品の手触りしか感じない。すごい。
やはり監督の手腕としては、脚本と演技演出の独創性が抜きん出ているんだと思われる。

脚本で今回きずいたのは、人と人が対立しあちこちで摩擦が起きまくる、全く心おだやかじゃない内容だったこと。キャラクター間で納得や同意が無いお話でも楽しめるんだ。と気付かされたのは収穫。
軋轢が起こっているのは、生き物としてピュアな価値観のベラ(および幾人かの女性たち)vs人間性と社会性が一体となった男性たち。
哀れな“Poor Things”は多分ベラに翻弄される男たちのことかな?だとしたら、この作品は、ベラによって社会性を剥ぎ取られた男たちがいかに哀れなものでしょう。というあたりが物語の主題だろうか。ベラに感情移入で男としてはそういう見え方になってしまう。

こんな変わった映画なのに、まとまって見えるのは何故だろう。ベラの一貫したスタンスだろうか。「生物としての精神性」が真っ当に曇りなく「人として純粋」なあり方なので、彼女が人類史を辿るように(「生物としての真っ当な精神性」を保ちながら)成熟してゆく様子が、縦線で一本通っているからだろうか。「知的好奇心」という前向きな心理が主人公の行動動機になっているので、見ていて気持ちが良いのだろうか。

登場人物=キャストは誰も彼も強烈な個性を発揮していてびっくり。こんな隅の登場人物まで情報を持たせられるのかと驚く。
ウィレム・デフォーはもちろんとして、一番印象に残ったのはダンカン・ウェダバーン。気ままな男をきどりながら、愛に絡め取られ落ちてゆく様が本当によかった。さすがマーク・ラファロ。なんだか周囲に流されてはっきりしない助手のマックス。セリフはないのにやけに主張が伝わってくる家政婦の女性。(あんなに全身入れ墨にする必要がどこに?な)娼館の女主人。残念な将軍。
あんな人たちなんているはずないのに、本当にそういう人たちに見えてくる。オリヴィア・コールマンにアカデミー主演女優賞をもたらした手腕はこういうことか。

エマ・ストーンもエンタメもできるのに、こういう作品を主演兼プロデュースしたり大活躍。しかもどの作品も面白い。すごい。

喜びと嬉しさで胸いっぱいの読後感。もっと見たいけど、あんまり多作な人ではないのは残念なところ。ただ、これだけのものを作るにはやっぱり時間かかるよね。と、次回作までの長い時間を思うと少し辛い。
山本Q

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