くわまんG

オリエント急行殺人事件のくわまんGのレビュー・感想・評価

オリエント急行殺人事件(1974年製作の映画)
4.0
アガサ・クリスティの名作サスペンスシリーズ「名探偵ポワロ」。中でも最も有名な推理ドラマの一つです。

TV版ではデビッド・スーシェがポワロを演じ、配役、演出、脚本、いずれをとっても一級品です。
本作はTV版でも90分のスペシャルとして放送されており、実に雄弁で思慮深いポワロの表情に胸を打たれます。

さて、アルバート・フィニー扮する今回のポワロは、スーシェのそれとはかなり趣が異なり、高慢ちきで嫌味な野郎です。これは原作のイメージにより近いそうです。自分はスーシェのポワロの方が好きですが、本作においてはそういった特色も良く活きています。

あらすじ:
時代は戦前。元々ベルギー警察に所属していたが第一次大戦後私立探偵へと転身したポワロ。次々に難事件を解決し、今や世界的に高名。
パレスチナでの仕事後イスタンブールに居たポワロだったが、抱えていた案件の都合で本拠のあるロンドンへ即日帰ることに。
つてを頼ってオリエント急行に乗りこむことに成功、あとは列車に揺られるだけだった。ところが、なんと車内で殺人事件が起きてしまう…。

見所:
良い意味でとんでもないオチ
筋を知っていても楽しめる上質な演出
脇を固める名優の威力
少し甘めの脚本と人物描写
「あいつが犯人ですよポワロさん」

推理ドラマというのは、余程とんがった出来じゃなければ、案外観る者を選びませんよね。その点本作はしっかりと観ごたえもあって、実にいいあんばいです。
初見時は度肝を抜かれました。こりゃ絶対誰も予想できねえ!と思ったものです。未鑑賞の方には尚おすすめです。

ちなみにTV版では、90分という枠のせいもあってか、重要な伏線と登場人物の描写が浅いのが残念。ただ、前述の通りポワロ自身の存在感は圧倒的で、また犯人の心情もこちらの方がしっかりと描かれています。エンディングは涙を誘います。

TV版の話ばかりで申し訳ありませんが、こちらもおすすめです。
20年以上にわたってスーシェが演じたポワロはとても愛おしいポワロです。様々なものに造詣の深い紳士ですが、クソ真面目で几帳面で潔癖な自分大好きおじさん。それは少年の持つ屈託の無さや寂しさにもつながるものがあり、家庭を持たない孤独さも相まって、周囲や観る者の心をつかみます。
レギュラーの脇役である助手のヘイスティングス大尉や秘書のミス・レモン、そしてジャップ警部も良い味が出ています。
基本的には一話完結で、時たま長編があります。80年代後半から4年前まで続いた超ロングランシリーズですが、どこから入っても楽しめるのもいいところです。最近のキナ臭いサスペンスドラマとはまた一味違い、どの話もハズレがありません。
お時間のある方はぜひどうぞ。