開明獣

不思議の国の数学者の開明獣のレビュー・感想・評価

不思議の国の数学者(2022年製作の映画)
5.0
こなつさんを初めとして複数のフォロワーさんからお薦めされ、3日以内に観ないと、九九を全て忘れてしまうと警告され、慌てて頭の中で無限に円周率を計算しながら劇場へと赴きました😌

ある高名な物理学者が、自分が手がけている学問は数学の力無しでは成り立たないのが、悔しいと冗談まじりで言っていた。自然科学系の学問の全ての根底を成す数学。だが、だからといって、数学が全ての学問の頂点な訳でない。

自然科学系も人文系も、学問の主な目的はこの世の理を明らかにしようとすることだ。方法論や対象は違えど、世の成り立ちのある部分を、その専門分野から解明することによって、世の中をよりよいものにしようと試みていく。その中でも、抽象的なことでは、高等数学は殊に哲学にもっとも近接している領域だと思う。

クルト・ゲーデルというアインシュタインと親しかった、不完全性定理で著名な数学者は、数学がある限定された条件の中では証明出来ない命題があることを実証し、論理哲学考のヴィトゲンシュタイン的なアプローチで、数学が全ての事物を記述することは可能ではないと論じた。

そのゲーデルと同じハンガリー出身の著名な数学者が、本作にも登場するポール・エルデシュなのである。「放浪の天才数学者ポール・エルデシュ」という本が草思社から出ていて、これが無類の面白さだったので(実際の数学の描写のところはすっ飛ばしましたが💦)、本作のある種の大切なキーの人物として扱われていて感慨深いものがあった。

エルデシュは数学は社会に役立つものという信念を持っていた。即ち、数学は実学である、と。実学であるからには、平和利用などの良き方向に使われもすれば、兵器の開発にも使われる可能性もある。そんな大事で深淵な学問を、脱北したかつての天才数学者が、南の高校生に偶然教えることになる。

バッハの無伴奏チェロソナタが美しいように、数学は美しいものだという信念を持つ学者には暗い過去があった。韓国での南北の分断が分かりにくいのなら、もしも日本で起きたのなら、東日本と西日本が、全く異なる主義や思想のもとに別の国家として断絶したいることを想像してみるといい。

そんな哀しい実情に対して、数学はイデオロギーや世代を超えた共通言語として理解していいのではないか?南北問題のみならず、紛争やまぬ世界に対しての平和のシンボルと考えても良いのではないか?

鑑賞後にそんなことを、つらつらと考えさせてくれた本作、上映館も少なくて中々スケジュール合わず、配信を覚悟したのだが、劇場で観れてよかった😌

例の如く、ゴテゴテといらぬことを書き散らしてしまったが、本作は数学の知識が全くなくても楽しめる素敵なヒューマン・ドラマだったε
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