ホッパー

セールス・ガールの考現学/セールス・ガールのホッパーのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

今となってははっきり言って面白かった。ただ映画を見ただけでは意味がわからなかったシーンがあった。パンフレットが非常によく出来ていて疑問を解決してくれた。パンフレットを買う人は映画ファンともいえども少ないと思うので自分がお金持ちであったら出口にフリーペーパーとして置きたいぐらい良い出来であることを最初の主張としたい。

 ポスタービジュアルが秀逸でとても目を引く本作、東南アジアかと思いきやまさかのモンゴルという驚きの本作。あらすじは物理を学ぶ女の子がひょんなことからとある女性に出会いアリとキリギリスで言うのであればキリギリス的な生き方、芸術を愛して踊るような生き方に針をふるという物語。

 オープニングの導入がベタでいい。画面の真ん中にバナナ。いやいやそんなベタなと思ったけれど誰が踏むのか楽しみした自分がいた。転んだのはポルノショップで働く女の子。この女の子が転んで怪我したおかげで本作のヒロイン・サロールは転んだ女の子のバイトの代役としてポルノショップに悪そうなやつじゃないからという理由で選ばれる。ハリウッド映画など開始5分以内に物語に観客を引き込むが本作もそうでオープニングから期待ができた。面白くわくわくする冒頭だと思った。

 さて書きたいことを書こう分からなかったけれどパンフレット読んでわかったことだ。向かいの家の飛び降りを見てしまったのがサロールの心の外傷だ。モンゴルの街で暮らす人は生活のために労働に追われる家庭が多いようだ。余暇の時間を惜しんで狭い家で暮らす。中にはその暮らしが嫌になる人もいるだろう。サロールは飛び降りを見たからカーテンをして窓の外を見ないようにしていた。カティアはそんなサロールを連れ出してトラウマの場所を掘り返して鉛筆を埋めろと言う。私には奇行にしか見えなかったがその意味はこうだった引用しよう。

“モンゴルの伝統文化では土を掘ることがタブーだった。土を耕す農業ですら「卑しい」と見なされた。だから人が亡くなっても草原に放置するのが一般的だった。そんな風葬文化が現代的な土葬へと変わったのは、20世紀になってからのことソ連の影響である”

なるほど膝を打った。土を掘るとは神さまに牙を向く行為で一緒ひどいことをする共犯者となることでカティアはサロールのトラウマに寄り添って見せた。このことがわかるとこれは奇行ではなかった。

風葬文化というなんだろう一種キリスト教の向こうを張れるくらいひとつ強い信仰のような生き方からソ連がきて社会主義時代があって、30年前ぐらいから民主主義国家になったってなんと複雑な国なのだろう(世界から見たら日本も複雑なのかもしれないけれど)。資本主義社会を歓迎するような映画にも見えるけどバイアグラを飲んで失踪した犬が外で家族を作るように性や生を肯定する映画なのだろうと感じた。違和感がある部分としてはアダルトショップを訪れて何も買うことができず帰った物理の教師のカバンに「男の子」をプレゼントするシーン。あれも共犯みたいなシーンだった。ただ真面目に生きてる人が滑稽に映っていたように見えたのであれはもっとやり方があったんじゃないだろうか。先にキリギリス的な生き方と書いたが情熱的に生きるとはお金を貯めない生き方じゃない。我慢してお金を貯めるアリの生き方の否定でもない。サロールがカティアを罵るシーンで自分が昔父親が反抗期の時に、俺はサラリーマンみたいなつまらない生き方はしないと父親を罵ったと思い出した。結局サラリーマンしてるし、なんなら父の時代の稼ぎなんか到底無理でえらいこと言ったもんだなと思う。ただやっぱ思ったことをぶつけてもらったという意味でカティアも嬉しかったんじゃないだろうかと思った。近しい人にしか歯は立てられないというか。物理の教師が驚いて「男の子」をしまうシーンで終わってしまったのでもうワンシーンあればキャラクターの救済という意味でも良かったんじゃないだろうか。

 天井に精子飛ぶシーンで劇場中が笑ってて、女性も笑ってたのでむしろ女性のほうが笑ってたように聞こえた。音が高いからかな?)いずれにせよ普遍的な人のあんまり大っぴらには語られない部分をみんなで笑ってると考えるといい映画だったと思う。

 あと劇中3度登場するミュージシャンのマグノリアン。かなり挑戦的な登場だ。だけどアップルミュージックで聞き始めたらはまってしまいそれを聴きながら原稿を書いてる。かっこいいと思う。あまり人を推したいなんて思わないけれどこのミュージシャンに才能があって出番が与えられたのわかる気がする。映画として出演シーンが効果的かというと言葉がわからなくて意味がとれないから違和感のほうが勝ってしまったけれど、三度登場したのが何故かを気にする人がいてもし音源にあたったらいいなと思う人が自分意外にもいるように思う。

 ロシアの男性が裸でカティアの家で猫と寝ていたのはカティアの猫を見つけたらとびきりのお礼をするという貼り紙のお礼の内容を暗示するもののようだ。性行為が与えられるお礼と書くと誤解を生むかもしれない。けれどでも男女問わず、誰かれ問わず、誰かと一夜肌を合せる行為はすごいことだとは思う。生きてきてある日女の子はいきなり綺麗になるような気がするしメイクの勉強とか服を好きなっていくというのがあると思うけれど、たぶんこれは男にも言えることでもしかしたら自分にもそんな時があったんじゃないかと思う。でるとこでたらモテる場所があったかもなと思う。マニュキュアを塗らないけれどボクシングするのにバンテージは巻けるし気分があがる。だから着飾ると武装するって似てると思ってる。なのでここまでくるとパワフルな映画で面白かったです。
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