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キリエのうたのホッパーのネタバレレビュー・内容・結末

キリエのうた(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

 観終えたあと、半分ドキュメンタリーだなと思った。それはなぜか?キリエ役のアイナ・ジ・エンドが力のあるシンガーだからだ。これは創作なんですという明らかに切れ間のある構成を感じる進み方は大林宣彦監督の影響を感じたが、歌唱シーンは劇映画には出せない迫力があった。これが半分ドキュメンタリーだと思されたことの正体のように思う。

 NHKでこの映画のドキュメンタリー番組を観た。岩井俊二監督は津波の取材をするとき、インタビューをする人にあなたを傷つけるかもしれないと前置いて断ってから取材をされていた。実際あったことを膨らませて劇映画を作ってそれを観る人に響かせる。ドキュメンタリーじゃない映画の創作ってそういうことだと思う。ただ、実際のそのままを作ることは神さまじゃない限り難しい。創世は無理なので、真に迫るというのは、作り物で実際あったことに迫ることだ。その違いがわかるのは実際を経験した人だけで描き足りなかったら不快に思うかもしれない。傷つく可能性もある。ただ、実際を知らない人が多く生きているわけだから、創作から作者が伝えたいことを受け取って泣いたり笑ったりできる。それが創作する人の喜びにつながっているように思う。

 家族を津波にさらわれた少女は、お姉さんのフィアンセのなっちゃんを頼りに大阪に向かう。幸運にもなっちゃんとは巡り会えたが普通に話せるということを失ってしまっていたし、一緒に過ごせた時間もわずかだった。そんななか逸子という友達に巡り合う。彼女らは高校卒業して以来の再会を新宿の西口で果たす。ざっとあらすじだ。津波のシーンを観てフラッシュバックする人がいるかもしれないと震災を経験していない自分は思った。被災者に聞く以外確かめようがないが真に迫っているのではないかと思った。

 ラスト、逸子が刺された後も、キリエが日常を暮らしている・ライブのために移動しているシーンに感銘を受けた。喋ることが困難となると生計を立てることは歌しかないし、どんな災難に遭っても、誰かを失っても歌うしかないというメッセージにも思えたからだ。

 若い女性同士の友情ものと思うと疎外感を多少感じる年齢になってしまったけれど、広く自分の物語かもと思ってもらえるためには主人公やヒロインの年齢層って若いほうが多数に届くのかもしれない。ほとんどの人に10代があったはずだから。

 結婚詐欺に関しては、何年ともに過ごすかわからないけれど、期待されるのは子供を成して成人するまでの20何年なのだろうか?わからないけど、期待させる未来と引き換えにお金を引っ張るのは刺されても仕方ないのかなぁと思ったりもした。才能のある人の近くにいて腐らずに大事に思って応援できるのは良いキャラクターだなと思えた。

 もともとライブハウスに行けない代わりに映画で音楽を聴きたいという動機で選んだ映画だったのでとても満足しました。次はライブという創生シーンを観に行くべきかも知れません。あ、じっさいのなっちゃんに迫るほうのキリエは喋り方がちょっと怖かったです。
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