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ショーイング・アップのいののネタバレレビュー・内容・結末

ショーイング・アップ(2022年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ライカートが教えている学生たちと創作した習作なのかと思いました(そう思っただけできっと勘違い)。字幕にも出てきたけど、OCAC=「オレゴン・カレッジ・オブ・アート&クラフト」が主な舞台。オレゴン州ポートランド。そこはアート村のような空間で、ある種のコミューンのようにもみえる。ダム爆発映画での野菜栽培がアートに変わったかのように。学生も教師も、各々が自由にのびのびと制作しているけれども、ライバル心など複雑な感情もきっとあるわけで。


今作のミシェルは、個展が迫っている彫刻家だけど、大学での事務仕事も担っているようだし、きっとまだ曖昧な立場なのだろうと思う。『ウェンディ&ルーシー』での溌溂としたふくらはぎを今作ではみせてくれない(『ウェンディ&ルーシー』はもう15年前の作品なんですね)。デニムのスカート、後姿はもっさりとしていて猫背。凄腕感は持ち合わせていないことを後姿でも表現していたような。


怪我をした鳩はリジー(ミシェル・ウィリアムズ)の心をあらわしているかのよう。部屋のシャワーはお湯がでないけど、鳩は湯たんぽで温める。個展出品制作があれやこれやで思うように進まないと、鳩をなでることで心の平穏を保とうとする。隣人の元に戻った鳩の姿をみられなくなるとイライラは頂点に。目の下のクマはどす黒さへと加速する。半分焼き焦げた彫刻品は、自身の心のダークな部分に相応するのか。そしてその自身のダークな部分は作品としてそのまま見せるのかどうするのか。


個展に来場する人も様々。作品まったくみないで「最高ね」という人。じっくりみつめて、感想いわなくても見つめる瞳で語る人。じっくりみて言葉でいう人。鳩が飛び立つと、ブレラン&『エンパイア・オブ・ライト』を思い出さずにはいられなくなる。鳩はリジーにとって、やれやれの存在から、癒しの存在、依存の対象、そして飛び立つところで彼女も自分の足で立って歩きだすということなのかな。それまで悶着もあった二人が並んで歩いているところがいいわよね。それも後姿で表現する。


隣人を演じたホン・チャウは、『ザ・ホエール』で看護師演じた方。あの役よりものびのびしていて好きかも。ミシェルのお兄ちゃんを演じたのは、『ファースト・カウ』で料理人クッキーを演じたジョン・マガロ。繊細で危なっかしい役どころを上手に演じていたと思う。


冒頭の場面で、わざと素人っぽくカメラをブレさせたりしている、その意図がわたしにはちょっとわからなかった。そのときの劇伴もいまいちな気がする(わたしにとっては)。今作に対して最初に不安を抱いてしまったことは鑑賞する際のマイナスになった。さすがライカートと思うような素晴らしい映像もあったのだけれど。



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*ライカートの作品の舞台のほとんどがオレゴンだと思う。

以下、自分用のメモです。
オレゴンとカリフォルニアの比較については、川本徹『フロンティア ニュー・ウェスタン映画論』森話社、2023年、45頁~48頁に詳しい。
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