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逆転のトライアングルのstのレビュー・感想・評価

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
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最高。。面白すぎて久々にレビューします。全シーン全カットに意味があるんだよな… 『パラサイト』を最初観た時みたいなシビれ方だった。以下ネタバレ含みます。

冒頭から早くもオストルンド節がピリピリと効いた社会風刺によって作中に引き込まれる。バレンシアガとH&M、椅子取りゲーム、勘定をめぐる男女の話、etc... なるほどカールとヤヤの関係性がここで判明する。ちなみにホテルで「エレベーターに乗るヤヤ」ってのもラストシーン(=「エレベーターに乗れないヤヤ」)への前フリとして効いてますね(多分)。

舞台は船上へ。「船」とはまさに資本主義そのもの。資本と労働のあり方は地上と変わりなく(←高額チップに沸くクルーたち)、かつ明確な格差が存在(←トリクルダウンの恩恵を受けることすらない清掃スタッフたち)する。ほどなくして「上裸で作業していたためクビになった従業員」や、「ほんの少し汚れていた帆先(へのクレーム)」など"過剰'な環境浄化(gentrification)が起こっていることに気づく。

「("過剰"な)浄化」により「フタ」をされたものは、その反動で文字通り"吐瀉/排泄物"とともに「噴出」していく。"クソ売り"によって成り上がったロシア人資本家とアメリカ人共産主義者である船長との掛け合いは、立場の違いこそあれ冷戦中の米ソを思わせ、2人の"冷戦"は、皮肉ながらも「船」が資本主義そのものによって生み出された「商品(commodity)=手榴弾」により"自爆"させられたことで終結する。

自壊した社会は島の上で再形成され、ヒエラルキーは見事に逆転。豪華客船「資本主義」号にあった舞台は、男女数人による「原始共産(狩猟採集)」島へと移る。ゲロ掃除(ブルシット・ジョブ!)をしていたアビゲイルの立場は一夜にして底辺(base)から頂点(vertex)へ。ラストの「エレベーター」はこのヒエラルキーの"再逆転"(ヤヤが乗ることで"下"から"上"へ)も示唆していると思うし、その扉が閉まったことはアビゲイルによる阻止成功を意味しているのかなと。

気になったのは、身分/階級の上下の別なく全てを映さんとする、引き画メイン(かつほぼフィックス)のカメラフレーミング。島への上陸シーンが特に印象的だし、最低限のパンもまるでカメラマンの意思が介在しないかのようにあまりにも自然かつ機械的にスウィッシュされ、ウェスアンダーソン作品における"必然的すぎる"カメラワーク(カメラはそう動くしかないよね的な)を思わせるように静かに確実に被写体を捉え続ける。撮影のフレドリック・ウェンツェル(オストルンド組っぽい)、今後チェックしとこ。チャールビ・ディーンの件は本当に本当に残念。冥福を祈ります。
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