たく

ヨーロッパ新世紀のたくのレビュー・感想・評価

ヨーロッパ新世紀(2022年製作の映画)
3.7
ルーマニアの小さな村を舞台に、村民の外国人労働者に対する激しい差別意識が渦巻く話。監督の指示によりルーマニア語とハンガリー語、その他の言語で日本語字幕の色分けがされてて、多言語が飛び交うカオスな世界で人間の醜い排外意識を嫌というほど見せ付けられるのがキツかった。突如現実離れするラストが難解だったね。採用難とか移民排斥とか、まさに今の日本も同じ問題を抱えてて他人事とは思えなかった。

ドイツの屠畜場に出稼ぎに来てたルーマニア人のマティアスが、上司から「ジプシー」という差別語をかけられてトラブルを起こし、ルーマニアに帰ってくる。すると息子のルディが失語症になってて、ルディが何を見たかというのが謎要素として作品の通奏低音となる。マティアスが妻とうまくいってなくて、元恋人のシーラに接触して行くのがちょっとストーカーっぽい。彼がマッチョ思想でルディを男らしく躾けようとするのも含めて怖かったね。シーラが経営するパン工場が、採用難から外国人労働者を雇うことが地域住民の差別感情を刺激し、醜悪な展開になって行く。

本筋と並行してパパ・オットーの痴呆症状が描かれてて、原題の”R.M.N.”はパパ・オットーが病院で受けるMRI検査のことを指すらしい。マティアスがMRI検査の写真をスマホで何度も見返す場面が意味ありげで、ルディが失語症になったのが森で自殺者を見たからということが分かり、それがパパ・オットーの行為にも繋がってるように思える(ルディが見たのは未来のパパ・オットー?)。こうして本作は暗示的な要素がいろいろ散りばめられてるんだけど、すっきり一つに繋がらないのがモヤモヤする。

外国人労働者の対応について集会場で議論される長回しのシーンが凄くて、彼らがこねたパンを食べたくないとか、イスラムは尻を拭かないから不衛生などと言い出す始末(彼らはイスラムでなくスリランカ人)。議論の熱が最高潮に達したところである事件が起き、これは人々の相入れない思考に対する絶望の象徴なのかなと思った。妻に出て行かれたマティアスがシーラの家にやってきて、なぜここでシーラが謝ったのか、その後に登場する熊の集団ががどう見ても着ぐるみで、意味不明な幕切れだった。熊にも象徴的な意味が込められてるんだろうね。
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