かすとり体力

聖地には蜘蛛が巣を張るのかすとり体力のレビュー・感想・評価

聖地には蜘蛛が巣を張る(2022年製作の映画)
3.8
『ボーダー 二つの世界』のアリ・アッバシ監督最新作。

当該作品が、賛否はともあれ観た者に激烈な印象を残すことは間違いない衝撃作品だったため、本作にも期待大。

なお、私は『ボーダー』については「お前らさぁ、『多様性は大切だ』とか言ってるけどよぉ、本当の意味で多様性を受入れるってことがどういうことか見せてやるよ。これでもお前ら『多様性は大切だ』って綺麗事言ってられるのか?」という疑問つきつけ系作品と位置付けており(完全に個人的な解釈)、超「賛」です。

さて、本作。
イランで起きた娼婦連続殺人事件と、それを追う女性ジャーナリストの姿を描く。

というあらすじを観ると、当然ながらミステリー的な作劇を想像するけど、全然違った。
冒頭から犯人登場。殺害プロセスもしっかり描く(しっかり描くな・・・)。

内容としては、結局やはり、『ボーダー』同様、社会性の強いテーマを含んだ作品だった。

私が捉まえたテーマは大きく2つ。「ジェンダー問題」と「間違えた正義」。
そう考えると、イランを舞台としながらも、とても高い普遍性を持った作品。

ジェンダー問題の方はテーマ設定が露骨なので今回言及しないが、この「間違えた正義」問題、ほんとわが国でも常に起きている問題よな。

非常にロジックの浅い正義感を個人が持つだけならその人の勝手だけど、それが社会的に大きなうねりとなっていくのはガチ恐怖。

娼婦は社会的に(宗教上も)害悪につき娼婦を殺した犯人を英雄視するっていう行為は、
「そもそも娼婦がいるのは買い手がいるからだよね」とか、
「(一般的には)進んでなりたいものではない娼婦に身をやつしているのは、そうせざるを得ないなんらかの背景があるはず」
とか、ごく当たり前の想像や論理的思考が出来ない人によるものと考えざるを得ず。怖し。

っていうところをすごく冷静な視点で映し出した作品だった。

また、構成上は後半に向けてびっくり展開あり。
「あ、そんなことになってくの!?」と衝撃。

そういった構成もあるし、要所要所に派手な出来事が散りばめられているので、テーマ性が強い作品でありながらしっかりエンタメしているところも好ポイントだった。

最後に一点。
本作のラストシーンはホント最恐エンドだった。。
モンスターパニック映画でモンスターを退治した後、ラストシーンでモンスターの卵が少し写って終わる、みたいなベタ演出があるが、これをモンスターパニック以外でやってる作品初めて見たぞ笑


以上、『ボーダー』ほどの異形感はないが、しっかり記憶に残る良作。
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