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あちらにいる鬼のminadukiのレビュー・感想・評価

あちらにいる鬼(2022年製作の映画)
3.7
原作井上荒野
父親(井上光晴)と愛人(瀬戸内晴美)、母親との三角関係を実の娘が、愛人からの視点で書いた小説。
映画にも原作同様、娘から見た母親寄りの視点や、家族が崩壊するかもしれないという不安は描かれていない
次の展開をドキドキしながら待たせることも、心を強く揺さぶるエピソードもなく淡々と物語る

登場人物への深い共感もない
それでも2時間超えの長尺を最後まで追えたのは、スクリーンの向こう側に伝えたいという役者たちの性、抑制された表情の裏からでも洩れ落ちる思いを、カメラが素直に掬って見せたからだと思う

結婚と恋愛、家庭と表現、非日常が日常に堕ちていくことのやるせなさ
人間の営みが枯れて錆びて朽ちていくサマをそのまま見せ続けて、最後に、それでも消えなかった情熱の小さな炎を写しとった映画

この脚本家、監督の仕事で期待した作家の才気は感じられなかった。それよりも物語への慈しみ、60年代末へのノスタルジーとその時代への優しい視線、人の生涯を感情移入や共感からではなく、被写体としてあるがまま見せてくれた外連味のなさがこの映画の推し処

それでも一言いわせてもらえば、正妻・広末涼子の描き方はもう一歩踏み込めなかったかな
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