minaduki

ナポレオンのminadukiのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.5
歴史年表のように、ナポレオンの経歴を士官から将軍、執政官、皇帝、流刑、復権、再度流刑と見せられる

並行して妻ジョセフィーヌとの出会い、結婚、不貞、諍い、離婚、密会、死別が描かれる
実はこの映画の主線はこちらだ
互いに求めあっているのに満たしあえないジョセフィーヌとの畸形のラブストーリー、その悲劇である

写されるものの物量がもの凄い
巨大さと迫力に圧倒される戦闘シーン
舞踏会、晩餐、戴冠式などの豪華さ、贅沢さにはため息が出た

そして、もう一つ
劇中で使われている音楽のセンスの良さ、美しさ
この映画には音楽映画としての楽しみもある

しかし私は、これほど贅沢な映画を見せられているのに、物足りなさを感じてしまった
孤独も切なさも悲哀も、恐怖と後悔に満たされた王の悲劇も、私の心を揺さぶるようなうねりとしては伝って来なかった

いったい何が足らないというのか

物語の道中で、ナポレオンに絡んでくる多くの登場人物とのドラマはほとんど組まれていない
唯一、ジョセフィーヌ以外とのドラマはほとんどない
戦闘シーンの超弩級の画もドラマに支えられていないから、強い刺激のはずが心に刺さってこない
大きくうねる時代をバックに、男と女の気持ちの機微を、その微細な揺れを対比させて描いているのだから、コントラストの強い表現として心に迫ってこなければならないはずなのに、私の心は麻痺してしまったように、この映画に心を揺さぶられることはなかった

虚無という言葉が浮かんだ
皇帝という地位と最高の名誉、最強の権力を得た男の人生も本当に欲しかったものは何一つ得られなかった
セントヘレナ島に流されて6年後、ひっそりと亡くなった英雄は世界に何を残したのか
時代は彼の存在を忘れ去ったように彼の死に一瞥もすることなく通り過ぎていった
虚無、この物語が描こうとしたのはそこかもしれないと思った
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