もるがな

ノック 終末の訪問者のもるがなのレビュー・感想・評価

ノック 終末の訪問者(2023年製作の映画)
3.8
評判の悪いシャマラン映画ではあるが個人的にはわりと面白く、シャマラン映画好きとして満足するぐらいシャマラン成分が高い。シャマランはトリッキーな転換やギミックの人と思われがちだが、実のところは「語り」の人であり、この映画も導入の語り口含めてワンシチュエーションの舞台設定やヒッチコックインスパイアのカメラワークなどはまさに職人芸である。本当に徹頭徹尾、映画らしい映画であると同時に、物語に対しての信仰心がべらぼうに高い。

脚本として見るなら雰囲気はスリリングではあるもののはっきり言えばつまらないし、登場人物に対するウエットな共感やドラマチック性は乏しい。よもすれば陰謀論を真実として落とし込むことへの「危うさ」や倫理観を問われる決断など、今作に限って言えば人によっては徹底的に合わないとさえ言えるだろう。

ただ、こうしたなるようにしかならない、捻りがなさすぎてもテンプレでもお約束ですら陳腐と言えてしまう、当たり前という言葉ですら生ぬるい物語を、何の気も衒うことなく、シンプルにさも初めて撮りましたというような感じで撮れるのはまさに才能の一つだろう。洗練された熟練の業と映画制作の専門学生のようなプリミティブな映画への憧憬が同居してるのが本来ならあり得ないことであり、ヒッチコック演出をクサくならずあんなにサラッと撮れるのは本当に映画が好きでないと無理だと思う。映画らしい映画を見たという満足感のある作品だった。
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